(19)竹葉亭≪岡麓≫

なかなかの名品です。銀座八丁目のうなぎの「竹葉亭」本店の正門の看板です。書はアララギ派の歌人・岡麓(おかふもと1877~1951)。歌と書に生涯をささげたとあって、見れば見るほどよい字です。これは看板というより書作品の名にふさわしく、さして大きくはありませんが(といってもヨコ1メートル以上はありますが、看板としては小ぶりです)、訴えかける力があります。大きければ勝ちといわんばかりの最近の展覧会至上主義の逆を行く、無言の力とでもいいましょうか。書のよさが見る人の目の中に広がるのです。うなぎの味みたいに。
「竹葉亭」といえば、かの斉藤茂吉が息子(茂太)のお見合いのあとの両家の顔合わせの席で、お嫁さんとなる人のうなぎを「ちょうだい」と言って食べてしまった、というユーモラスな話が思い浮かびます。アララギの歌人がしばしば訪れた老舗ですから、逸話にはこと欠きません。私が書くまでもないでしょう。
彫り師は不明ということですが、地を浅く平ノミで浚い、文字はところどころカスレを控えめに彫りつけ、縁に素朴な味を加えています。地色は漆に焼き群青を混ぜたようで、黒くもなく青くもなく、全体に上品な感じに仕上がっています。またこの金箔は相当高度な箔押しの技術がなければできません。技術的にも第一級の仕事で、銀座必見の傑作です。これほど完成度の高い書なのに、作者はまだ納得が行かなかったのか、落款を押さなかったようです。そこで、左下が何となく寂しいのですが、これは私が「誰の書?」と思う習性があるからでしょう。
なお右手の入り口にも書刻看板がとりつけられていますが、何と言っても上の作が圧巻です。
■竹葉亭 本店 東京都中央区銀座8-14-7 03-3542-0789
銀座五丁目の店は漱石の「我輩は猫である」に出るほどの店で、「うなぎ」と大書したタテ看板があり、これも堂々たるものです。
掲載日時 2008 年 12 月 11 日 - PM 03 : 50
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