(18)林田画廊≪松尾敏男≫ 清々しい楷書

彫りに注目してください。これは薬研(やげん)彫りといいます。三角にV字カットする彫り込み法です。多くの文字看板はいわゆる「カマボコ彫り」で、薬研彫りはほとんど見られません。ですから京橋の「林田画廊」は楷書にふさわしい彫りを吟味しているのです。
薬研は薬草を摺り砕くための道具で、三角の溝があります。ご覧のように文字の中央部が最深部となっています。単純な彫りですが、やってみるとなかなか奥が深く、魅力があります。とくに文字の片側半分が光をうけて浮かび出るのが面白く、この効果をねらってなるべく明るい色を入れるのが得策です。上の写真では「林」の字の白い胡粉が光っているところと、翳っているところが見えています。プロのカメラマンならちゃんとライティングして、もっとダイナミックに写すでしょう。
元禄の頃、薬研彫りがおおいに流行りました。石碑、とくに墓石にはかなり残っています。文化文政になると下火になり、きりりとした薬研彫りは減って、だらりとした篠(しの)彫りに変っています。面白いことに墓石では書き順の逆に彫っています。つまり後から書く線のほうが上に来るのでなく、逆に下にもぐらせているのです。墓石だからあえて逆縁にしたのではないかと思います。
上の看板は書き順を出していません。「田」「画」の中央部は十字路になっていて、タテ・ヨコ平等です。これも線のクロスするところがすっきり見えます。このように、薬研彫りはバリエーションも見所です。(なお篠彫りという名称は石刻の用語で、文字の中央部をゆるやかに深める彫りのことを指します。板の彫りにはほとんど使われません。)
書は著名な日本画家の松尾敏男(1926~)。日本芸術院理事。2000年に文化功労者に指定されている大家です。静かな画風そのままに、書も王羲之ばりのきれいな楷書で清々しい字です。板はケヤキで落款には「敏作」とあり、金箔押し。彫りは女流刻字家・小田玉瑛とのことです。(さきに島尾敏雄と混同して書いてしまい、林田画廊様よりご指摘いただきました。ここにお詫びして訂正させていただきます。大変失礼いたしました。)
■林田画廊 東京都中央区京橋2-6-16 03-3567-7778 地味な看板ですが品格にまさっています。ぜひ実物をご覧ください。店内には原書があります。
掲載日時 2008 年 12 月 04 日 - PM 06 : 11
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