(17)青柳 珍しい篆書の看板
見やすい、読みやすいというのが看板の第一条件ですから、「篆書(てんしょ)」の看板はあまり多くは見かけません。行書や隷書に比べると非常にわずかです。これはその珍しい篆書の看板で、八丁堀のお菓子屋さんです。
ご丁寧に「八丁堀」まで篆書で書いてあります。「青」は読めるとして「柳」はどうでしょうか。何となくわかる、という人はなかなかのものです。「丁」は面白い形ですね。これが正しい字形です。「おや?」と思わせる効果があるとしたら、篆書看板もまんざら棄てたものではありません。分かりやすい字形であれば大いに推奨したいところです。
見たところだいぶ年期が入っていますから、これは立派に今日にも通用している好個の一例です。ご主人によると20年ほど前に作ったもの。書家に書いてもらった字ではなく、誰の字かわからないそうです。でも字形は正確な小篆を踏襲しているし、板もケヤキの大物で、文字は漆と、ちゃんとしています。板ははじめは茶色でも、時が経つとこのように白っぽくなるので、黒い漆もだんだん目立ってきます。下部の止め具もなかなかいい形で、こういうものを作る職人があった時代が羨ましく思われます。
八丁堀はわが新富町のお隣にあり、ここのお団子は私にとってもお馴染みなのです。同じ「青柳」が入船町にもあります。ここもお馴染みですが、創業は明治とあります。ただし看板は古くありません。私が子供の頃、銀座七丁目あたりに「青柳」がありましたが、今は見当たりません。ことによると、この八丁堀が出していたのでしょうか。勝手に想像しています。
ともあれ、篆書のものとして貴重です。このコラムも有名書家のものばかりを取り上げないで、隠れた字を探してほしい、という声も聞かれますので、次からそういうものを取り上げるとしましょう。
■青柳菓子舗西八丁堀 中央区八丁堀2-14-6
掲載日時 2008 年 11 月 27 日 - 午後 02 : 46
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