(51) 割烹 躍金楼 《山岡鉄舟》 新富町
「てっきんろう」と読んでいます。「躍」は意味上「耀」とも通じます。跳躍の「ヤク」ですが、「翟」は「テキ」と読むので、これを声符として「テキ」の読みをとって店名にしたもの。命名は山岡鉄舟。このような読みの差別化に漢学の素養がうかがわれます。北宋の詩人范仲淹(はんちゅうえん989~1052)の詩『岳陽楼記』に、
長煙 一空 皓月 千里 浮光 躍金 静影 沈璧
漁歌 互答 此ノ楽シミ何ゾ極マランヤ 登レバ斯ノ楼ニ也 とあり、「長煙が空いっぱいに広がり、月明かりは千里を照らし、光ただよいて金が舞い上がるがごと 湖面の影は玉璧を沈め 漁師たちは互いに歌をやりとりす この楽しみは何に極まらんや この楼閣に登ればなり」という意味。この詩は後段に「先に天下の憂いを憂い、後に天下の楽を楽しむ」の、いわゆる「先憂後楽」の語があることで有名です。岳陽楼は中国、湖南省の洞庭湖の東北岸に建ち、北には長江が臨まれる大景観の地。
ケヤキ板に平彫り、胡粉を施しています。達筆で、書者は今では不明とのこと、恐らく命名者・山岡鉄舟の書でしょう。スキのない筆致が似ています。
創業は明治6年(1973年)。遊郭のあった「新島原」と「大富町」が前年の大火によって新たに統合されて生まれた「新富町」に開業。今のトーアマンションのあたりにありましたが、昭和26年に現在地に移りました。移転した私の「新・青溪書苑」は上の写真の左の横丁を少し行く人の右手にあり、いわば「ご近所」です。当時は築地の海が目の前で、活魚料理の魚が「躍っている」イメージもあったのでしょう。料理のおいしさ、細やかなお手並みは定評どうりです。
██ 割烹 躍金楼 〒104-0041 東京都中央区新富1-10-4
☎03-3553-0365 座敷会席8000円より。日曜祝日休み。
掲載日時 2015 年 11 月 03 日 - 午後 01 : 51
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