(59)日本料理「加賀屋」銀座店 《土屋竹雨》
「加賀屋銀座店」は今はビルの地下にありますが、以前は一階にあり、ウインドウには看板の代わりに、石に彫った「加賀屋」の置物が鎮座していました。今は残念ながら見ることができません。この「看板めぐり」の中でも、石は珍しく、どなたの書か知りたいと思い、店のかたに尋ねたところ、このほど丁寧なご返事をいただき、ようやく筆者がわかりました。
「あの石は今どうなっていますか?」と聞いたら「奥に大切に保管しています」とのことで重い石をわざわざ運んで見せてくださいました。その写真が上です。
書は土屋竹雨(1887-1958)。写真下。漢詩の詩人です。山形県鶴岡市の人。本名は久泰、字を子健。仙台二高から1914年に東京帝大法学部を卒業。漢詩壇の第一人者として活躍。
漢詩人は漢文の詩ですから漢字に精通していなければ出来ず、中国語の音韻を知らなければなりません。明治までは識者といえばそのような素養の持ち主ばかりで、みな漢詩を自作していました。しかし漢文が読まれなくなり、こうした詩作は湯島の聖堂「斯文会」などで学ばなければならない時代になっています。土屋竹雨は漢詩作成のために雑誌「東華」を刊行し、大東文化大学の学長ともなって自らの詩集を発行、1945年終戦と同時に故郷鶴岡に疎開し、到道博物館の顧問として漢詩の指導にあたりました。
さて石に彫られた字を拝見するに、詩人らしくてらいのない品位ある字です。「加」が上下に並ぶ書きにくい字で、賀の字の口をつぶしているあたり、苦心のほどがうかがわれます。
残念ながら土屋竹雨と加賀屋の創業者・小田與吉郎(明治39年9月創業)との接点が見当たりません。山形県鶴岡の名士と加賀和倉温泉の主人とがどのように出会い、交流したのか、恐らく面白いエピソードが秘められているのでは、と類推します。館内は美術館という加賀屋本店のお蔵には、土屋竹雨の直筆軸が眠っているかも知れず、もう少し掘り下げて加賀屋のお宝にスポットライトを当てたいところです。手始めにこの石碑を「石庭の間」に飾ったらいかがでしょう。
申し遅れましたが加賀百万石の金沢の老舗旅館、料理はさることながら百年という加賀屋の歴史はいまさら私が言うまでもありません。東京に居ながら加賀の料理を味わえる銀座店の魅力もありがたく、代々の女将による薫陶が徹底されている社員でも有名です。
加賀屋銀座店 東京都中央区銀座5丁目8番17号 ヒューリック銀座ワールドタウンビルB1階
予約はtel.03-3289-6500
〒926-0192 石川県七尾市和倉町ヨ部80番地 代表TEL(0767)62-1111
掲載日時 2022 年 09 月 08 日 - 午後 01 : 00
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