(56) 「春風洞画廊」の金属看板
これも板への書刻看板ではありませんが、文字に品があり、おだやかなたたずまい、ゆったりとした運筆、「風」や「洞」のハネなどは素人離れしています。
そこでどなたの書か伺ったところ、ご丁寧なメールをいただきました。残念ながら作者名は分からないとのことです。1986年(昭和61年)にここ日本橋に開店したとき、ビルの設計事務所が作成し、現在ではその事務所もなく確かめようがない、とは何とも残念です。少なくとも看板は店の顔なので、そうそう取り換えるものではありません。どなたの書であるか、誰も気にかけなかったことになります。
このシリーズで筆者不明はままありますが、それだけに今調査しておくことが重要です。私は書き手の側に立って考えるので、書いた人がなおざりにされるのは不本意です。しかし時代の趨勢が風化を誘うことも事実で、それを防ぐうえでも、「誰の書か」を問いかけていこうと思っています。変な字なら別ですが、このような書は書き手がどんな人なのか知りたくなるではありませんか。
憶測するに、書家ならば「落款、題箋、印」をつけるのが普通です。それがないということは画家かもしれません。ただし日本画家なら「落款」をつけますから、洋画家ではないでしょうか。設計者は丹下健三のお弟子さんだったそうです。その人脈をほぐして行けば解明できるかもしれません。
■春風洞画廊(横井春風洞)美術品の販売、購入。
〒103-0027 東京都中央区日本橋3-8-10 ☎03-3281-5252
日本橋高島屋の裏通りにある。牛込矢来町の審美社が原点。1960年京橋に、1986年に日本橋の現在地に移転。
掲載日時 2016 年 07 月 12 日 - 午後 01 : 57
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