(55)「飯田好日堂」 田山方南
京橋の骨董店です。この欄では木彫の看板を主として取り上げていますが、陶板は珍しいので敢えて取り上げます。
なぜ珍しいかというと、陶板そのものがなかなか厄介なシロモノなのです。粘土を板状にするには充分に「菊練り」という作業を行い、粘土の中の空気の泡を除去しておかねばなりません。小さな泡粒があると焼成時に破裂して板が壊れるからです。板が大きければ大変です。私は陶板の看板には注意を払っているのですが、これは20×50ほどの大きさで大作というべく、滅多にお目にかかることはありません。板皿をお持ちですか? 大きな板皿の5枚セットというものはなかなか見当たらないものです。しかもこの店にはこれが二枚も壁にはめ込まれています。私の知る限り都内でも最大級の陶板だと思います。
焼きは布目に緑の釉薬をかけた織部焼でシックにできています。入口に向かって右は文字を筋彫りしています。表面に切り込みを入れるのですから、これも割れを誘発する遠因となり冷や汗もの。ちゃんとクリヤーしています。二枚目左は手がこんでいて文字の周囲の粘土を浅く浚い、文字浮き出しです。下方に少し割れが出ました。この程度はやむを得ません。
さて筆者は田山方南(たやまほうなん 1903~1980)、禅林墨跡の研究家で三重県生まれ。東京帝大文学部国史科を出て文化財保護の審議員をつとめました。本名は信郎。杉並の方南町に住んだので号を「方南」。文字と彫りは方南自作で、焼成は窯場で焼かせたものです。飯田好日堂の先代が今のビルを建てたとき依頼したもので、昭和45年ごろの作と思われます。
■茶道具骨董店「飯田好日堂」 〒104-0031 東京都中央区京橋1-11-8 ☎03-3561-2033
掲載日時 2016 年 06 月 22 日 - 午後 03 : 56
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