65 世禄侈富 車駕肥軽

65 世禄侈富 車駕肥軽

     せいろく しふ    しゃが ひけい

 (貴族たちは)世襲の奉禄をほしいままにして富み、馬車の馬はまるまると太り、車は軽く華奢に作られている。

「世禄(せいろく)」は禄を世襲することである。世は「セイ」と漢音に読む。「せ」と読むのは呉音である。
「侈(し)」は奢ること。尊大をよそおい他に誇ること、と『字統』にある。
「車駕」は馬にクビキをつけて引かせる車。貴族たちの乗り物で、馬の負担を軽くするために軽く華奢に、しかも贅沢に作られている。
「軽」を貴人の着る衣服が軽い、と解説する本があるが、「衣」とはどこにも言っていない。「李注」あたりが論語の「肥馬に乗り軽裘を衣(き)る」の語句をひけらかしたためであろう。ここは車駕について言っているのである。このように「千字文」の解説書には衒学的付会が多い。まるで子供だましのようだ。

【字形説明】
 上の活字とは別に「彑(けいがしら)」にする活字もある。しかし楷書では表記のように書くか、「彐(けい)」の形に書くかのいずれかである。『干禄』でも「彐」としている。「録、緑、碌、禄」なども同じ。篆書に合わせて後世『康煕字典』が彑に改竄したのである。「篆」の活字にそれがまだ残っている。
 ウカンムリでなく「冨」とワカンムリにする形もある。『干禄』でそれを「俗」としたところを見ると、ワカンムリのほうが初唐形であろう。
 ツクリの「巠(けい)」は表記のように「圣」とするのが初唐形である。ただし活字のように「又」と「土」ではなく、「ス」と「土」である。表記天溪の書く形が正しい。すでにこれは「61経」のところでも言及した。

「65 世禄侈富 車駕肥軽」の印刷用画面はコチラ

この見本文字を利用したら、右記リンク先から写真をお送りください。 - 青溪会への通知