しょうかい のうへい べんてん ぎせい
(宮殿の)階(きざはし)をのぼって、(高官たちが)陛(へい)のなかに入る。(昇殿の正装である)辯(べん=革の冠)が右に左に転じて、星かと見まがうほどだ。
殿上人が宮殿に入る様。中央の外階段を昇って、「陛に納まる」という。陛(へい)も階段であるが、本殿内部に入る階段である。本殿中央は陛下であり、天子の御座所がある。天子への呼びかけに「陛下」を使う所以である。
辯は「弁冠(べんかん)」のこと。革製の冠をいう。「転ずる」という動詞の意味は「展開する」「次々と現れる」の意。「疑星」は「星ではないかと疑う」つまり「星にも擬せられる」ほどきらびやかなのである。
【字形説明】
升 篆書字形は分量をはかる器の形。意味は「のぼる」で、昇や上と通じる。
階 『干禄』によれば「皆」は比の下が「白」ではなく「日」。『康煕字典』で「白」にしたが「日」が正しい。
辯 「辡(べん)」は二人並んで神に誓約しているところ。原告と被告の二人である。中に「言」をはさんでいるが、これは神に誓う言葉である。字形の原義はそうだが、革製の冠を「辯」という。今の常用字「弁」は「辯、辨、瓣」の三字の略として通用させている。欧陽詢が「弁」を使っているところを見ると旧い略形である。
轉 ツクリの「專」は楷書では早くから「専」と書いていた。楷書の省略美学である。しかし『干禄』では「専」を通、ムをつけた「專」を正としたために、混み入ってしまった。『干禄』はよくよく複雑な字形がお好きらしい。現今の活字は「専」とスッキリしてもとの初唐形に戻った。これでよいのである。「転」という略字があるが、なぜ「云」になるのか私には分らない。
疑 『干禄』では左は「ヒと矢」を正とし、これが今の正字となっているが、初唐形は「上と夫」あるいは「上と天」で、『干禄』で通として排除したのである。表記の天溪の書は折衷案で、私からすれば「ヒ」は「上」とすべきである。ツクリは表記の天溪のように書くのが正しく、『干禄』で「マと疋」としたのは楷書の美学を無視したのである。
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