としゃ きんじゅう がさい せんれい
(その殿中の部屋には)禽獣を写生した画が飾られ、仙霊の世界があや絹に描かれている。
禽獣は鳥やけものであるが、どれも皆珍獣を描いているのである。中には龍や麒麟などの想像上の動物も含まれていよう。
なにしろ宮中の障壁画なのだから、ありふれたネズミやスズメなどではない。
また仙人や霊力のある人物などを描くのである。中国人の仙人への憧れはなかなかのもので、古くから仙薬である「不老長寿」の薬を求めることはなはだしきものがある。
ここの八字はどれも最近の略字に変っているので、注記し甲斐がある。
【字形説明】
圖 クニガマエ(囗)を取り去った形(下図1)もよく使われた。『干禄』でそれが「俗」とされ、表記のようになったが、クニガマエのないほうが楷書としてはスッキリする。なお回は下図2のように書いたが、『干禄』ですべて「回」とした。どれも『説文』の篆書字形に合わせたのであり、伝統的なものではない。現在の「図」という略字形は草書字形からできたもので、略字としては由緒正しい。
寫 上部はウカンムリではなく、ワカンムリの図3のような形が初唐形である。臼は篆書形を模したもので、書き難いので楷書では「旧」と書く。 『干禄』でこの図3を「俗」とし、「寫」を「正」とした。この改訂はもちろん根拠がない。現在の「写」はこの省略形である。
獸 初唐形では下図4、5がある。どちらも『干禄』では「正」としている。下図4は下の口をムにしたもの。両者は相互に互換性がある。現在は上の口二つをツと略する(獣)。
畫 「聿(いつ)」と「田」と「一」の合字。聿は「ふで」だから下に突き出すが、活字では出さないようだ。手書きの楷書ならばやはりちょっと出すべきだろう。この字も現在では「画」と略されている。
綵 「あや絹」のこと。「いろどる」と動詞に読んでもよい。ただし「彩」は「光彩」のことで、綵と同字ではない、と『干禄』では注記している。
仙 古くは「僊」と書いた。隷書までは僊である。ツクリは「遷(うつす)」の意。何を移すのかと言うと「その人の霊魂」を「あの世」に遷移するのである。霊を遷移された人は、もう死ぬことはないから、永遠不滅の寿命を得ている。そのような人はきっと山の奥にいるであろう、ということで、後世の楷書で「仙」の字ができた。山(サン)の発音は「セン」に近いのであろう。
靈 アメカンムリの下が今は違っている(霊)。古くは「口三つと巫」であった。雨乞いなどで、口よせする巫女があったのであろう。
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