しふ じくん えつげん よけい
厳しい父に資(つか)え、立派な天君に事(つか)える。厳しいということは(やがては)尊敬を与えることだから。
このくだりのヒントは「父と厳」「君と敬」とが対句になっていることである。表記のように横に並べて描いてみるといっそうはっきりする。「厳父」と「敬君」が文字からくるイメージである。厳しい父親に育てられた子供は、大人になればそれが有難かった、とわかるであろう。厳しさは敬を与えることになるのである。
極めてわかりやすい道徳である。これは逆に「君」のほうにもあてはまる。いたづらに家臣を甘やかしていてもダメで、君子には時には嫌われるほどの厳しさが必要なのである。八方美人の総理では尊敬されない。
「父に仕えるやり方で君に事える」と訳す本が多いが、ぐうたらな父もある。父に仕えるやり方なら何でもよいわけではない。
【字形説明】
資 欠の最後をトメているが、右に払う形でもよい。ここはすぐ下に「父」という払う字があるので重複を避けたのである。
事 第6画目のヨコ棒を右に突き出していない。実はこれ(ヨ形)がむしろ普通の楷書形である。楷書の美学では横画の最長のものは一字に一本とする。それ以外は「ヨ」でよろしい。「君」はそこが最長の部分なので、篆書形が残ったのである。これについては出版デザイナーの大熊肇氏が的確に指摘しておられる。(「ユリイカ」2010年1月号)。傾聴すべき小論である。
曰 「えつ、いわく」という字である。活字では「日(ひ、にち)」と区別がつかないが、楷書では「えつ」の字は1画と2画目の間を空ける。篆書字形は祭器の蓋をあけて中の祓辞をのぞかせた形。口から息がもれるとする『説文』の解釈は白川説では誤りである。
厳 上部は活字のような省略形ではなく口ふたつ(口口)、あるいは口の間にタテ棒を入れて口|口とするのが古い字形。
與 省略形としての「与」はこの中心部をとった。草書がこうしているので、「与」は伝統を踏まえた略字である。
敬 クサカンムリのところはちょっと変化させただけである。
「31 資父事君 曰厳與敬」の印刷用画面はコチラ
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