54 宮殿盤欝 楼観飛驚

54 宮殿盤欝 楼観飛驚

     きゅうでん はんうつ  ろうかん ひけい

 宮殿の建物は入り組んでおり、森林のように欝勃としている。高楼が立ち上がっている様子は飛ぶ鳥もびっくりするほどだ。

 洛陽や長安などの都の宮殿の様をのべる。
「盤欝(はんうつ)」は「わだかまり、こみいっていること」。複雑に入り込んだ建築物がひしめきあっている様子である。深い森の中のようだ。

 また高楼の景観はこれまたすばらしく、鳥でもなければ全体を見渡せないであろう。その鳥もきっとびっくりするに違いない。

 『詩経』に「雉が飛ぶ」描写があるので、ここは五色の雉が驚く、と読む本もあるが、雉でなくともよいのであって、楼観は飛ばねば評価しきれないことは誰が見ても明らかである。「飛驚」は高いものを見て驚く表現にはぴったりであろう。

【字形説明】
 ウカンムリの中は「呂」ではなく口二つである。これはすでに「4律呂調陽」のところで述べた。初唐形では明らかに口ふたつで、『干禄』もそれを容認していたらしく、何も記していない。篆書形に合わせたのは『康煕字典』からであろうと思われる。
殿 楷書では「尸(し)」とするが、篆書形は3画目は下につけ、左上の口が「コ」と開く。楷書および活字形はみな「尸」であって、尻居届展屋屈屁尼など左上は閉じている。天溪はここに「篆意」を加えたのであるが、本来の楷書字形ではない。
 下が石となる「磐」とする本もある。「盤は磐に通ず」とされ、同字扱いするのである。『干禄』に「磐は磐石の磐」「盤は盤器の盤」と区別している。しかしどちらにも「わだかまる」の意味があるので「通用字」とされているのであろう。
 表記のような字形が伝統的な楷書字形で、初唐形である。「木」と「木」の間に×ふたつはバツバツでなく「タ」のように書くこともある。しかし『干禄』でこれを篆書形に近づけて、「木と木の間」を「缶」とした。これが第一の変形である。『説文』字形を楷書的に翻案したものが、『康煕字典』で示す「鬱」である。「林」と「缶(ふ)」と、「冖(べき)」と「鬯(ちょう)」と「彡(さん)」の合字ということになる。こんな字は全く書きにくく、楷書の美学を無視したアナクロニズムに他ならない。この不自然な第二の変形が今日では正字とされている。
 今「娄」としているところは「婁」である。古くは「串」の真ん中に一本横線を加えた形に「女」もあった。『干禄』ではその形を踏襲している。「数」なども同じである。「婁」の字形は『説文』字形を楷書的に翻案したもので、『康煕字典』で正式に取り上げられた形。つまり、一番後世になって現れる楷書形ということになる。
 活字の「観」は行書形、正しくは「クサカンムリ」に口二つ(雚)であるが、天溪はナベブタのように書いている。これはちょいと隷書形をもじったのである。正しくは「觀」とすべきである。「勸、歡」なども同じ。
 升と書くことが多い。表記の天溪の字はちょっと行書風の変形である。
 敬のクサカンムリを変化させている。これは字形の違いではなく、バリエーションのひとつである。



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