30 尺璧非寳 寸陰是競

30 尺璧非寳 寸陰是競

     せきへき ひほう   すんいん しけい

 大きな璧(たま、ギョク)だとて寳(たから)に非ず。寸陰(短い時間)は競うべきものだ。

 「尺と寸」「是と非」が対置されている。
 尺も寸も手指の巾をもとにした寸法単位で、親指と中指を広げた長さが尺。寸は一本の指巾。一尺は十寸である。ここは対置されて、大きい璧と小さい時間の対となる。「是非」は yes と no だから「寳」はダメで「競」はオススメである。

 『淮南子(えなんじ)』に「聖人は尺璧を貴ばず、而して寸陰を重んず」とある。璧の獲得より寸陰を競うほうが大切なのである。
 中国には見事な璧が多く産出する。宝石より璧を好むようである。
 璧を宝物だと思うと、競って獲得しようとする。そんなものは寳でないと思え。競うべきは寸陰なのだ、ということであろう。

【字形説明】
 篆書字形によると上部が手首、下の左右のヒラキで親指と中指を広げた形を表す。なお漢音ではセキ、呉音ではシャク。セキという読みは聞き慣れないかもしれないが、尺牘(せきとく=文字を記した木札)という語もある。
 表記の楷書では天溪は「玉」とテンをつけるべきところを「王」としている。王を玉と書くことはある。(将棋の駒などはギョクである)。しかし「玉ギョク=たま」を王とするのはいかがかと思う。「玉」の位置は活字のように下部全面であっても、表記のように左に寄せても構わない。また活字では「辛」となっているが、下の「十」を表記のように二本棒にするのが正しい。『干禄』もそれを踏襲している。
 表記された楷書は『干禄』では「寶」と造字している。「尓」とするのは「通」で「缶」とするのが正しいという。しかしこの小さい部分に「缶」を入れるのは不自然。「尓」が一般的に用いられ、行書、草書もそれを踏襲しているので「尓」こそが正しい。
 「光陰矢のごとし」のように「陰」は時間を意味する。日時計のかげであろう。「今」と書かれている部分は屋根の下の「ラ」を.「二」とするのが楷書では普通である。また屋根の下を「長」とする形(隂)も広く使われていた。
 キョウは慣用的な読み方で、漢音ではケイ。ここは韻を踏んでいるところなので、仄音(そくおん)でケイと読まねばならない。競馬のケイである。なお、楷書の伝統書法では二つ並んでいる「立」の(竝)下線をつないで一本にし、下は「兄」ひとつで済ませることがある。シャレた改良形である。

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