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やよひになりて
やよひになりて、咲く桜あれば、散りかひ曇り、おほかたのさかりなるころ、のどやかにおはする。(中略)
姫君はいとあざやかに、気高ういまめかしき様したまひて、ただ人に見たてまつらむは、似げなうみえ給ふ(源氏物語 竹河)
扇面作である。扇面の見方、書き方については私のエッセイ「扇面考」をお読みください。
金銀の砂子をちりばめた手漉きの料紙に「やよひになりて」と書きはじめる心地はいかばかりか、と羨ましく思うかたもおありだろう。心のゆとりというものがなくてはコチコチになって書けたものではない。この「ゆとり」を身につけるために、長いこと筆に親しんできたのである。
「姫君」とあるのは玉鬘の上の娘(大君)である。下の娘(中君)は今上天皇に輿入れし、大君はこのたび冷泉院に入内することになった。玉鬘邸が「のどやかにおはする」というのもむべなるかな、である。今をさかりの権門の姫君の様子は「いとあざやかに気高う今めかしきさま」とある。「ただ人(臣下)」にはとても見えない高貴さが漂っている。
作者 杉浦和子
かな 扇面
出典 源氏物語「竹河」
制作 2002
番号 会0054
作者 : 4.会員
掲載 : 2009/12/19