2008年8月 会員の作品
その門に い出ての後ぞ

その門に い出ての後ぞ 知られける
根を離れたる 草木やはある(西行)
西行課題作は全部で15首を選び、幹事諸氏に委ねたのだが、選歌は西行の山家集から、晩年の釈教歌を取り上げている。この歌は松屋本にのみあり、陽明本、板本にはない。しかし一応西行のものとされている。
西行の花鳥風月の歌は広く取り上げられ、よく知られているが、釈教歌は書人もあまり書いていないようだ。しかし西行が73年の人生の50年間を出家者として過ごした、という事実は動かしがたいことである。若干23才の若さで、地位を捨てて高野山の奥にこもったのである。
この歌の文意は明瞭であるが、用語には難解なところがある。「いでての」というところ、仏門に「入りての」のほうが自然なはず。「いりて」を「いでて」と誤記もしくは誤読した可能性もある。どう解するかは石塚さん次第で、作品は「いでて」をとった。法門に「入った」というより「出家した」という意識が強くあり、それは次の「根を離れた草木などあるだろうか」という言葉によって強調されている。「根」は世間とのしがらみ。いかにそれが強かったかが、思い知らされる、と言っている。釈教歌というよりは、かなり人間的な歌である。すでに歌人、文化人として名をなし、政治の中枢部にもおり、前途洋々たる青年が、世間に執着がなかった、とすれば立派すぎというものである。
ところでこの歌は他の五つの歌と合わせて、地水火風空の五大にあてはめて作られている。この歌はそのうちの「地」にあたるもので、「根」を「地に根ざすもの」と解釈すれば、文意は全く変わってくる。「すべてのものは大地に支えられて、存在あらしめられている。つまり仏の大きな配慮のもとにある。そのことが、仏門に入ってはじめてわかった」となる。西行にはこの創作意図がはっきりあったと思われる。
この歌の面白みは後者の意図の裏に、前者の人間らしさがダブルところにもあるのではないだろうか。
かな 書軸 紙本青墨 55×170
出典 西行
作者 石塚洋子
制作 1998
撮影 タカヒコ
番号 00021
大きな画像
作者 : 4.会員
掲載 : 2008/08/21 上に戻る
古き木の 根をも何かは

古き木の 根をも何かは 思ふべき そこに通れる 風にまかせて(西行)
1998年(第20回青溪会展)では仮名部門、漢字部門の幹事に課題を与えた。仮名は西行の歌を一首。与えられた歌を各自が文字の選別、散らし、用紙、表装等々工夫をこらす。
この紙はシワが寄っているのではなく、撚れ模様である。枯れた古木に通う風を意識している。
かな 書額 撚れ紙 95×50
出典 西行
作者 杉山明子
制作 1998
撮影 タカヒコ
番号 00020
大きな画像
作者 : 4.会員
掲載 : 2008/08/15 上に戻る
吉野山 こぞのしほりの

吉野山 こぞのしほりの 道かへて まだ見ぬ方の 花をたづねむ(西行)
1998年の青溪会20回展は「天溪七回忌」にあたり、仮名部門の幹事諸氏には「西行の歌」を課題とした。
中央からはじまり、右下段「花をたづねむ」へと散らしている。西行の好きだった「花」をこの位置に据えたのである。このような布置は伝統として定着しており、王朝時代の女性の感性がビビッドだったあかしといえよう。
かな 書軸 青墨 60×120
出典 西行
作者 杉浦和子
制作 1998
撮影 タカヒコ
番号 会00019
大きな画像
作者 : 4.会員
掲載 : 2008/08/15 上に戻る
ひそみきて たがうつかねぞ

ひそみきて たがうつかねぞ さよふけて
ほとけもゆめに いりたまふころ(会津八一)
歌人としては秋艸道人とすべきかもしれない。こんな真夜中に何を祈っているのだろうか。「ひそみきて」にミステリアスな響きがある。
かな 書額 半懐紙 45×50
出典 会津八一
作者 野呂純子
制作 1998
撮影 タカヒコ
番号 会00018
大きな画像
作者 : 4.会員
掲載 : 2008/08/15 上に戻る
壽を脩む

壽を脩(おさ)む
壽は「命の長いこと」、脩は「おさめる」。天寿を全うすることにほかならぬ。脩には「長い、遠い」の意味もあって、「いのちながし」と訓ずることもできよう。
我が国は平均寿命では世界のトップクラスにあるらしい。余命で数えるともっと長くなるそうだ。長いだけではなく健康で長くありたい。いや、一病息災で90まで生きている人もある。おそらく脩(おさ)めに脩めなければできることではない。
隷書 陶板 弁柄 20×25
作者 町田由溪
焼成 八王子焼窯元 工藤孝生
撮影 岡村
番号 会00017
大きな画像
作者 : 4.会員
掲載 : 2008/08/15 上に戻る
その子はたち

その子はたち 櫛にながるゝ 黒髪の
おごりの春の 美しきかな(与謝野晶子)
杉の流れるような木目が清々しい。文字には群青(ぐんじょう)の水干絵具を入れた。青は若いという意味がある。(青春の青がそれである。)「おごりの春」がこの歌の主題だが、改段して次段のトップ(右)に「春」を配した。ここに散らしの工夫がある。 かなではこれは大作に属する。与謝野晶子の絶唱。何度読んでもいい歌だ。
「はたちのときに中央区書道展に出したのがこの歌だったのよ」とウン年あとの作者が教えてくれた。
かな 書額 書刻 杉板 彫込 群青
50×110
出典 与謝野晶子
筆者 石塚洋子
制作 1998
刻者 岡村大
番号 会00016
大きな画像
作者 : 4.会員
掲載 : 2008/08/01 上に戻る
