目次:青渓会 会員
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114 川こえて 清澄みず庭
川こえて 清澄みず庭 おとづれぬ
降りみふらずみ 秋の日寒く
(天溪歌「庭めぐり」)
作者 吉田秀子
かな 書軸 17×68/28×130
出典 天溪「庭めぐり」
制作 2015 中央区書道展
連盟奨励賞受賞
番号 会00114
清澄庭園は隅田川を渡った深川にある「水庭」である。「振りみ振らずみ」は「振ったりやんだり」の意。天溪は雨男だったので「振ったりやんだり」はいい方である。この日は肌寒かったのであろう。
「きよすみ」の「す」は春の変体がなで頻出の字形だから充分に練習して「手に入れ」なければならない。ここがややモタモタしている。
作者 : 4.会員
掲載 : 2015/11/12 上に戻る
113 いまはとて 都こひせむ
いまはとて 都こひせむ みやこどり
すみだ川面に 問ふによしなし
(天溪歌「庭めぐり」)
作者 伊勢佳恵
かな 書軸 17×68/28×130
出典 天溪「庭めぐり」
制作 2015 中央区書道展
連盟奨励賞受賞
番号 会00113
隅田川では「かもめ」と言わずに「みやこどり」という。しかし謡曲の「隅田川」は、ここで愛する子供の死に遭遇する。いまさら都を恋しがったところで何になろう。澄んだ川面に問うよしもないではないか。という意味。
かなの稽古も佳境に入り、変体仮名も五つほどになった。印の位置を考えて最後の「なし」に余裕がほしい。
作者 : 4.会員
掲載 : 2015/11/12 上に戻る
112 清澄の 庭木おしなべ なだらかに
清澄の 庭木おしなべ なだらかに
丸ぽちゃ刈りに こころほころぶ
(天溪歌「庭めぐり」)
作者 風間秀子
かな 書軸 17×68/28×130
出典 天溪「庭めぐり」
制作 2015 中央区書道展
会長賞受賞
番号 会00112
天溪の歌集「庭めぐり」の清澄庭園から。半切1/4に三行。
晩年はお弟子さんを連れて近郊の庭園を訪れては歌を詠んでいた。深川の清澄庭園の庭木はなだらかな植栽が多いのであろう。
メリハリのきいたこの作はめでたくこの年の「会長賞」に輝いた。
作者 : 4.会員
掲載 : 2015/11/12 上に戻る
111 華知鳥 鳥待華
華 鳥を知り 鳥 華を待つ
作者 野呂マリ子
篆書 書刻 檜板 丸浚 白緑 金砂子 12×50
出典 ?
制作 2015
番号 会00111
中央の「鳥」は下に「二」があり、「鳥鳥」の二字目を略したもの。したがって二回読んで「知る」の目的語と「待つ」の主語となる。読み下すと上のようになるが、実際の漢文の字並びはちょっと「粋」である。
ヒノキの板を浅く丸刀で総浚いし、白緑を塗った。文字には金箔を細かく蒔いて柔らか味を出している。
作者 : 4.会員
掲載 : 2015/11/12 上に戻る
110 将軍空爾為
将軍空しく為す(のみ)(李白『戦城南』)
作者 宍戸幸司
楷書 書刻 朴板 浮出彫 金箔押 地色赤紫
12.5×93
出典 李白「戦城南」
制作 2015
さきほど完成して、裏面に金具を取り付け、紫の丸紐(太目の正絹組紐)をつけて、持ち帰ったばかり。
「空爾為」は「むなしく為すのみ」と訓じた。「さすがの将軍も激しい戦場では手をこまねいて戦雲に任せるばかり、お手上げ状態」という作者の時局風刺である。イスラム過激派には困ったものだ。しかしこれが戦争というものである。武には武と言っても所詮はイタチゴッコなのではあるまいか。
制作工程をまとめておく。
⑴清書 ⑵別紙に籠字取り ⑶板への貼り込み(字入れ) ⑷(文字への)タテ込み ⑸(文字ぎわの)浚い ⑹総ザライ ⑺下塗(黒) ⑻修正彫り ⑼下塗(二回目) ⑽紫着彩 ⑾研ぎ出し ⑿箔押し ⒀印朱着彩 ⒁金具、紐取り付け ⒂外箱作成 以上。
さわやかに仕上がった。金箔はどんな色にも調和し上品になる。それぞれの工程を丁寧に楽しんでいると、やがて出来上がる。自己満足度も高いはず。
作者 : 4.会員
掲載 : 2015/05/24 上に戻る
109 浣花渓水
浣花渓水 水の西頭 主人 為に卜(ぼく)せり 林塘の幽なるやを。
作者 野呂マリ子
行書 小屏風 55×40
出典 杜甫『卜居』
制作 2015
杜甫が浣花渓(かんかけい=地名)のほとりに居をさだめた時の詩。「水は西を頭にしている」とあるから、西から流れてきているのであろう。この居の主(あるじ)である自分は、あらかじめ「林塘(りんとう)の幽なるや」を占っておいた。「塘」はほとり、岸辺、つつみ、土手。林のもとに池を作って水を引いたのだろう。林と池の堤が幽遠な趣きになるやを自分の為に卜したのである。
これはお稽古の途中のもので、作品制作の清書ではない。ときどき練習中のものでも仕立ててみることはプラスになる。
作者 : 4.会員
掲載 : 2015/03/14 上に戻る
108 挙杯邀名月 對影成三人
杯を挙げて名月を邀(むか)え
影に対して三人と成る(李白)
作者 蒲田令望
出典 李白「月下獨酌」
行書 書軸 紙本濃墨
34×86/45×160
制作 2014
番号 会00108
月下に独り酒を飲む。自分と月と月影と、三人の酒盛りである。
「邀(ヨウ)」は「邀撃(ヨウゲキ)」の邀。「むかえる」と読む。
サンズイは「感激」の激。「はげしい」。
キヘンは「檄文」の檄。「役所が出すおふれ」でこれも「はげしい刺激的な文」。
テヘンは「キョウ」と読み、「ぴしりと打つ」。漢字はなかなか難しい。
くっきりとした濃墨で詩句の心を反映している。煌々たる月夜の晩に、月影があまりに黒々と伸びているのにびっくりすることがある。
作者 : 4.会員
掲載 : 2015/01/22 上に戻る
107 斧いれて 香におどろくや
作者 風間秀子
かな 条幅 料紙濃墨 36×130/26×67(半切1/2)
出典 与謝蕪村
制作 2014 66回中央区書道展 連盟奨励賞
番号 会00107
斧(をの)いれて 香におどろくや 冬木立(蕪村812)
薪割りである。ヒノキあるいはクスがまじっていたのだろうか。ナラやクヌギでは香らない。
俳句は人生の一瞬をあざやかに切り取ってみせる日本独自の文学である。所作の日常性が斧の一撃で全く別の世界に瞬時に転化してしまう。冬枯れの中にぽっかり開けた驚きの香の世界。
この句のキーワードは「香」で、次に「斧」であろう。「冬木立」は全体の背景なので、字としてはもう少しおとなしくしめくくってほしいが、黒々と大きく出しゃばってしまった。そのようなあれやこれやの感想を自分の作品の前で反芻しながら、書の表現もレベルアップして行く。作品は目のつくところに飾りなさい。毎日眺めながら、句の内容を考えなさい。さっさとしまいこんで目もくれぬような人に上達はない。
「いれて」の「て」は「氐(テイ)」という漢字の草書体から派生した変体仮名。「弖(テ)」と同じ。
「香に」の「に」は「尓(ジ)」からの変体仮名。楷書では「爾」と書き、かなりうっとうしい。「尓」はその省略体。「あなた」という意味でよく使われるので、省略化が進んだのである。「に(仁)」よりもひんぱんに使われる。
「斧」は歴史的かなづかいでは「をの」。「おの」は現代的かなづかい。こんなこともついでに知っておこう。
作者 : 4.会員
掲載 : 2015/01/09 上に戻る
106 山は暮れて 野はたそがれの
作者 平野絹代
かな 条幅 料紙濃墨 36×130/26×67(半切1/2)
出典 与謝蕪村
制作 2014 66回中央区書道展 連盟奨励賞
番号 会00106
山は暮れて 野はたそがれの すゝきかな(蕪村487)
蕪村の代表作とも言える有名句。「暮れて」と「たそがれ」とがダブルイメージで短い俳句としては冗長であると私は思うが、そのような欠陥があるにもかかわらず、夕暮れのススキ野の「やるせない」気分がよく表出していて、なかなかの名句であると思う。
「すゝきかな」の「き」の字がすばらしい。父天溪はお弟子さんの作に「一字でもいい字があればそれは得がたい」としていた。ご当人にそのよさは分からないかもしれないが、なんとも言えず上手いのです。
変体仮名について解説しておこう。は(者)、た(多)、か(可)の三字。漢字は「山、野」の二字だけ。句頭にドンと置くと引き締まる。
作者 : 4.会員
掲載 : 2015/01/09 上に戻る
105 うつくしや 野分の後の とうがらし
作者 吉田秀子
かな 条幅 料紙濃墨 36×130/26×67(半切1/2)
出典 与謝蕪村
制作 2014 66回中央区書道展 連盟奨励賞
番号 会00105
うつくしや 野分(のわき)の後の とうがらし(蕪村339)
前作の作者と同じ入門4年目の作。中心線がとれるようになった。
野分きが吹き荒れた翌朝、散らばっている唐辛子の紅が鮮やかだ。
印の位置も大切で、どこに布置するかで印象が違ってくる。これは「ら」のへこみに軒を借りたのである。一作ごとに慎重に考えて押印しているうちに、書く時点ですでに頭の中にインプットされるようになり、他人の作品の印の位置まで気にかかるようになる。そうなれば一人前だ。
「とうがらし」の「唐」は歴史的かなづかいでは「たう」。「とう」は現代的かなづかいである。こういう基本も一作ごとに覚えておこう。
「つくし」と「からし」とが三字の連綿。「し」はむづかしい。しかも「見せ場」になるのだ。線の最後をストレートに延ばすか、やや右に振り向けるか、逆をついて左に向けるか、思案のしどころでもある。「うつくしや」の「し」はどっちつかずで、自信なさげである。こういうところが今後の課題。まあ、「し」は仮名書をたしなむ人の一生のテーマなのだ。
この料紙は中央に金箔砂子が蒔かれているが写真ではちょっと見えないところが残念。
作者 : 4.会員
掲載 : 2015/01/09 上に戻る