2010年7月 岡村友子の作品
8 冬 (最終巻)

汀の氷など 見やりて(薄雲)
昔 今の 御ものがたりに 夜更けゆく。月 いよいよ澄みて しずかに おもしろし。(中略)
氷とぢ 石間の水は 行きなやみ 空すむ 月の影ぞながるゝ(中略)
鴛鴦(をし)の うち鳴きたるに、
かきつめて 昔恋しき 雪も夜に あはれをそふる 鴛鴦のうき寝か(朝顔)
拡大図 解説はスクロールしてはじめにさかのぼってください。
料紙 楮麻紙肌 銀焼箔散 180×60
撮影 杉山栄紘(ストゥディオ・キャトゥル)
番号 友00074
作者 : 2.岡村友子
掲載 : 2010/07/30 上に戻る
7 冬 しはす

空のけしき 烈しう 風ふき荒れて 大殿油 きえにけるを ともしつくる 人もなし。(末摘花)
雪の いたう 降り積りたる上に 今も 散りつつ 松と竹との けぢめ をかしう見ゆる 夕ぐれに 人の御かたちも ひかり まさりて
見ゆ。(朝顔)
師走にもなりぬ。雪・霰がちに こころ細さ まさりて 「あやしく さまざまに 物思ふべかりける 身かな」(中略)
雪 かきくらし 降り積るあした 来し方 行く末のこと 残らず 思ひ続けて 例は 殊に端近なる 出で居などせぬを
(8につづく)
拡大図 解説はスクロールしてはじめにさかのぼってください。
料紙 楮麻紙肌 銀箔散(右柱・錫箔平押) 180×60
撮影 杉山栄紘(ストゥディオ・キャトゥル)
番号 友00073
作者 : 2.岡村友子
掲載 : 2010/07/30 上に戻る
6 秋 ながつき

大御酒まゐり 氷水召して 水飯など とりどりに さうどきつゝ食ふ。風は いとよく吹けども 日のどかに くもりなき空の 西日になる程 蝉の声なども いと、くるしげに 聞こゆ。(常夏)
長月つごもりなれば 紅葉の色々こきまぜ 霜枯れの草 むらむら をかしう 見え渡る。(関屋)
紅葉 やうやう 色づきわたりて 秋の野の いと なまめきたるなど 見給ひて 故郷も 忘られぬべく 思さる。(賢木)
日入り方に なり行くに 空の気色も あはれに 霧りわたりて 山のかげは 小暗き心ちするに(中略) 垣ほに生ふる 撫子の うち靡ける色も をかしう見ゆ。(夕霧)
拡大図 解説はスクロールしてはじめにさかのぼってください。
料紙 石版色淡染 青金錫箔砂子霞 (右柱・石版色中染) 180×60
撮影 杉山栄紘(ストゥディオ・キャトゥル)
番号 友00072
作者 : 2.岡村友子
掲載 : 2010/07/30 上に戻る
5 梅雨 夏

日頃 降りつるなごりの 雨 いますこし そゝぎて、をかしきほどに 月 さし出でたり。(中略)
かたもなく荒れたる 家の木立繁く 森のやうなるを 過ぎたまふ。大きなる松に 藤の咲きかゝりて 月かげに なびきたる風に つきてさと 匂ふがなつかしく そこはかとなき かをりなり。(蓬生)
長雨 例の年よりもいたくして 晴るゝ方なく つれづれなれば 御方々 絵物語などのすさびにて 明かし暮らし給ふ。(蛍)
いとあつき日 東のつり殿にいでたまひて 涼み給ふ。
中将の君もさぶらひ給ふ。 したしき殿上人 あまたさぶらひて 西河より たてまつれる鮎 ちかき河の いしぶしやうのもの 御前にて調じ まゐらす。(常夏)
拡大図 解説はスクロールしてはじめにさかのぼってください。
料紙 灰紫淡染 青金水金砂子霞 (右柱・灰紫中染) 180×60
撮影 杉山栄紘(ストゥディオ・キャトゥル)
番号 友00071
作者 : 2.岡村友子
掲載 : 2010/07/30 上に戻る
4 春 さつき

七日の夕月夜 影ほのかなるに 池のかがみ のどかに 澄みわたれり げに まだ ほのかなる梢どもの さうざうしき ころなるに いといたうけしきばみ 横たはれたる松の 小高きほどにはあらぬに かゝれる花のさま 世の常ならず おもしろし(藤裏葉)
五月雨の空 めづらしう はれたる雲間に わたりたまふ 何ばかりの 御装なく うちやつして 御前などもなく 忍びて 中川の程 過ぐるに ささやかなる家の 木立など よしばめるに よくなる琴を 東に調べて かき合はせ 賑はしく 弾きなすなり(中略)
をちかへり えぞ忍ばれぬ ほととぎす ほの語らひし 宿の垣根に(中略)
ほととぎす かたらふ声は それながら あなおぼつかな さみだれの空(花散里)
拡大図 解説はスクロールしてはじめにさかのぼってください。
料紙 二藍淡染 青金砂子霞 (右柱・二藍中染)180×60
撮影 杉山栄紘(ストゥディオ・キャトゥル)
番号 友00070
作者 : 2.岡村友子
掲載 : 2010/07/25 上に戻る
3 春 やよひ

やよひになりて 咲く桜あれば 散りかひ くもり おほかたの さかりなるころ のどやかに おはする(中略)
さくらの細長 山吹などの 折にあひたる 色あひの なつかしき程に 重なりたる裾まで 愛敬のこぼれ落ちたる様に見ゆる【竹河】
弥生のつごもりなれば 京の花ざかりは みな過ぎにけり 山の桜は まださかりにて 入りもておはするまゝに かすみの たゝずまひも をかしう見ゆ(中略)
「はるかに かすみわたりて 四方の木ずゑ そこはかとなう けぶりわたれるほど 絵に いとよくも似たるかな」(若紫)
拡大図 解説はスクロールしてはじめにさかのぼってください。
料紙 千歳茶淡染 赤金砂子霞 (右柱・千歳茶中染)180×60
撮影 杉山栄紘(ストゥディオ・キャトゥル)
番号 友00069
作者 : 2.岡村友子
掲載 : 2010/07/25 上に戻る
2 春 きさらぎ

日の いとうらゝかなるに いつしかと かすみわたれる 梢どもの 心もとなきなかにも 梅はけしきばみ ほゝゑみ わたれる とりわきて見ゆ(末摘花)
如月に なれば 花の木どもの 盛りなるも まだしきも 梢をかしう かすみわたれるに かの御形見の紅梅に うぐひすの はなやかに 鳴き出でたれば たち出でゝ御覧ず
うゑて見し 花のあるじも なき宿に 知らず顔にて 来ゐる鶯(幻)
二月(きさらぎ)の中の十日ばかりの 青柳の わづかに しだり始めたらん ここちして うぐひすの 羽風にも みだれぬべく あえかに見えたまふ(若菜下)
拡大図 解説はスクロールしてはじめにさかのぼってください。
料紙 代赭色淡染 腰雲砂子 180×60
撮影 杉山栄紘(ストゥディオ・キャトゥル)
番号 友00068
作者 : 2.岡村友子
掲載 : 2010/07/24 上に戻る
1 新年

年たちかへる あしたの空のけしき なごりなく 曇らぬうららかげさには 数ならぬ垣根のうちだに 雪間の草 わかやかに 色づきはじめ いつしかと けしきだつ かすみに 木の芽もうちけぶり おのづから 人の心も のびらかにぞ 見ゆるかし。
ましていとど 玉をしける 御前は 庭よりはじめ 見どころ多く みがきまし給へる 御方々の ありさま まねびたてむも 言の葉足るまじくなむ。
春の おとどの 御前 とりわきて うめの香も 御簾のうちの 匂ひに 吹きまがひて 生ける仏の 御國とおぼゆ。(初音)
拡大図 解説は前の項目にスクロールしてください。
料紙 代赭色中染 金天地雲砂子 (右柱・代赭色深染) 180×60
参考 同文の作 番号:友00056
撮影 杉山栄紘(ストゥディオ・キャトゥル)
番号 友00067
作者 : 2.岡村友子
掲載 : 2010/07/24 上に戻る
源氏物語の四季(連作) 解説
八紙一連の字巻
かな書家が平安盛期の古筆を範とするのは言うまでもないが、作者もこれまで一貫して古典の研鑚に明け暮れてきた。
2001年の正月には松坂屋別館3階の画廊で「源氏物語の世界」と題する個展を行った。このときは物語の展開に重きをおき、主に全懐紙サイズの幅と額二〇数点を発表した。その他「源氏物語」を書いた作品は多数にのぼり、このコーナーでもすでに多くの作品を紹介している。
ここでは新たに「源氏物語に描かれる四季」に視点を移して、全五十四帖の中から、適切な部分を選び出して、八紙一連の大字巻に仕立てた作品を紹介する。物語の展開にはこだわらず、引用巻は前後している。
これは山岸校訂本(岩波日本古典文学大系)を通読した作者自身による抽出である。1の新年にはじまり、春、初夏、夏、秋とすすみ、最後は8の冬まで、紫式部の描写を通じて日本の四季を通覧できる構成になっている。
この一連の作品は2004年の1月に銀座松坂屋別館五階のカトレヤサロンで発表したもので、作者の手がけた畢竟の大作である。

かな書としての特色
かな書としての作者の意図は読みやすく書くことにある。
変体仮名の使用をできる限り少なくおさえ、逆に漢字表記のほうが分かりやすい場合には漢字を用いた。(例えば「ちうしやうのきみ」よりは「中将の君」のように。)また「散らし」に伴う改行についても、不自然な区切り方を避けて、文章の流れをそこなわないことを旨としている。
いろは単体(いわゆる「いろは」五十字)を主に据えることは、変化をつけにくいこともあって、「の」を「濃」に、「へ」を「幣」になど、後代になると変体仮名の羅列になるが、古典ではこれはあくまでも例外であって、本来は「いろは単体」が基本なのである。
現今のかな書道の難解化の風潮に対する作者の従来からの主張がここに見られる。かな書は素人には読めないものとあきらめず、ともかく一、二行は読んでみてください。
料紙について
作者の構想は一枚の紙面が180×60センチ、八面が一連となる王朝風の料紙であって、すべてを接してつなげることにあった。その大きさからして特注はさけられない。幸い、田中健助商店社長・田中純一氏が全面的に協力して下さり、料紙の吟味、染めの色調、右端の細い中柱の使用など、きめ細かい配慮をたまわり、現代における技術の粋を結集してできあがった。

金銀の砂子、切り箔、野毛、金銀泥引きなどは同店の名人・市川克巳氏の練達のわざによる。おかげで赤金、青金、水金、銀、焼銀、錫などの箔を効果的におりまぜ、さながら源氏物語絵巻の詞書の料紙に通ずる王朝美をここに再現することができた。作者の構想の通り、一連の展示としたいところだが、さすがにこの長さを確保できる会場は銀座には難しく、展示では三部分に分けざるをえなかった。

なおこのとき同時に発表した別紙一点の「源氏香尽」は同じく香に関する引用からなり、料紙には引用巻の香紋を配している。この作品についてはすでにこの作品紹介のコーナーでとりあげたので、そちらもご覧ください。
作者 : 2.岡村友子
掲載 : 2010/07/24 上に戻る
消えゆく露の心地して

消えゆく露の心地して、限りに見え給へば、御誦経の使ども、かずも知らず、たち騒ぎたり。さきざきも、かくて生き出で給ふをりにならひて「御物の怪」と、うたがひ給ひて、夜一夜さまざまのことを、し尽くさせ給へど、かひもなく明け果つるほどに、消えはて給ひぬ。(源氏物語・御法)
紫上の逝去の場。源氏物語絵巻にもこの場面がある。書家にとっても筆がむずむずするような、ぜひとも書きたいくだりである。
かな 書額 染紙濃墨 20×29(本体)
出典 源氏物語・御法(みのり)
制作 2001(個展)
番号 友00066
作者 : 2.岡村友子
掲載 : 2010/07/24 上に戻る
