岡村天渓の作品
剪紙招我魂
剪紙して我が魂を招く(杜甫)
剪紙(せんし)は中国のお家芸で、いろいろな図柄に紙を剪(き)って、魔除けにしたり、吉祥を招いたり、護符のように使う。杜甫の時代にも祈りをこめた剪紙を部屋や門口に飾ったのであろう。
逃避行のあげくに杜甫がたどりついた知人の家では、剪紙を飾り、消耗した身体に元気な魂を招いて、旅の疲れを癒してくれたのである。気付け薬のような効用があると信じられていたのだろう。その心遣いが嬉しかったのである。
ところで、これは表具師・大崎老人のために書いたもので、天溪はこの杜甫の句を別の意味に使っている。紙を剪るのは表具師の基本技。書家の魂を招いてくれる名人技に敬意を表しているのである。古典を、相手によって読み分けて、適所に使うのは天溪の得意技であった。
「我」という字は見慣れない形をしている。ノギヘン(禾)に戈(か)を書く。このほか「禾」の下に一本横線をつける字形もある。どれも隷書字形にあり、「曹全碑」の「峨」などは後者を書いている。清代の篆刻家は呉譲之、趙之謙、呉大澂など篆隷ともに「禾」を用いた。それ以前にあまり使われなかった字形が清代に現れたのは一種の流行ではないかと思われる。天溪はそれを楷書に応用したのである。
行書 立軸 半切1/2 紋箋紙濃墨
出典 杜甫
制作 1979
番号 天00059
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2010/03/11
