2008年12月 岡村天渓の作品
空林獨り白雲と期す

空林獨り白雲と期す(王維)
原詩は空牀とあるが「ひとり寝のベッド」というのは「いかにも」と思うところがあって「空林」とした。だからこれは出典が王維であっても、原詩を離れて天溪の文意ということになる。誰もいない林のなかで、白雲だけを友として何を期するのだろうか。見るひとの心に答えを委ねるには絶好のお膳立てといえる。
書体は「さん宝子碑」である。「さん」の字は難し過ぎて変換できない。隷書のスタイルとして雲南辺境の変り種と思われていたが、近年中国本土からもこの書体が次々と発見されて、かなり正当な流れにあったことが分かってきた。早くからこの碑を評価していた天溪のような書家は「それ見たことか」と思っているだろう。王羲之の従兄弟にあたる王興之の墓誌銘などには明らかにこのスタイルが見えている。しかし天溪は「王興之墓誌名」の碑群を見ることなく死んでしまったので、今頃悔しがっているにちがいない。
板はヒノキであろう。全体を浚って石垣のような面をつくり、その上から文字を彫り込むこの手法は私も愛用するところだが、これを用いる書刻家はほとんどない。ノミ目をランダムに、しかも平均してハツルのが意外に難しく、またそれだけに面白いのである。手を入れれば入れるほど目が細かくなって失敗する。ほどほどにバラけさせるのにはやはりセンスが必要だ。
書刻 額 ヒノキ板 彫込 総浚 103×29.5
出典 王維「早秋山中作」
静岡 I氏蔵
制作 1982(京都個展)
番号 天00029
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2008/12/13 上に戻る
