岡村天渓の作品
最新10件の作品掲載です。 全ての掲載作品をご覧になるにはこちらをご覧ください。
剪紙招我魂
剪紙して我が魂を招く(杜甫)
剪紙(せんし)は中国のお家芸で、いろいろな図柄に紙を剪(き)って、魔除けにしたり、吉祥を招いたり、護符のように使う。杜甫の時代にも祈りをこめた剪紙を部屋や門口に飾ったのであろう。
逃避行のあげくに杜甫がたどりついた知人の家では、剪紙を飾り、消耗した身体に元気な魂を招いて、旅の疲れを癒してくれたのである。気付け薬のような効用があると信じられていたのだろう。その心遣いが嬉しかったのである。
ところで、これは表具師・大崎老人のために書いたもので、天溪はこの杜甫の句を別の意味に使っている。紙を剪るのは表具師の基本技。書家の魂を招いてくれる名人技に敬意を表しているのである。古典を、相手によって読み分けて、適所に使うのは天溪の得意技であった。
行書 立軸 半切1/2 紋箋紙濃墨
出典 杜甫
制作 1979
番号 天00059
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2010/03/11
人生七十古来稀
人生七十 古来(こらい)稀(まれ)(杜甫)
日本人の平均寿命が延びて「古来稀」ではなくなった昨今であるが、男は大体70台でみまかるのではなかろうか。私なども80台は計算にいれないことにしている。女性はすごい。世界ダントツ一位だそうだ。人口密度がこれほど高く、しかも先進国で、これほど多数の長寿婦人を擁する国はない、と先日、ある講演会でそんな話を聞いた。だから、今の日本の80歳台のご婦人の生き方を見習いなさい、洗濯機も冷蔵庫もテレビもマイカーもなかった時代を再評価しなさい、いや、江戸時代がすばらしかった、環境破壊なしですよ、とやや強引な持ち上げ方をしていた。
自然破壊がなかったのは、破壊させるだけの科学技術がなかったからで、あってもしなかったのなら誉められもしよう。
さて、この作品は杉板に彫ったもので、文字色は「黄土」である。写真がボケているのは私の手ブレである。
行書 書刻額 杉板 平彫 30×70
出典 杜甫
制作 1970
静岡 N氏蔵
番号 天00058
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2010/02/19
百重泉

百重の泉(白居易)
百重は「ひゃくじゅう」でも「ひゃくちょう」でもよいだろう。いくつにもうち重なって流れる泉、こんこんと湧き出る水量と、ゆたかな水資源の広がりが、たった三字でイメージされる。さわやかな水音までも聞こえてくるようだ。漢字の世界というのはまことに面白い。
そこで書家としては線にその思いを託す。泉を絵にして実景を描くのではなく、筆跡の「線質」や「長短」や「肥痩(ひそう=太い細い)などにそのイメージを託すわけである。全体としてアタマに浮かぶさまざまな「泉」のイメージを喚起できればよい。できれば実景を上まわって、文学的な想念の世界に誘いたい。
世の中には変な書家がいて、「波」という字を絵のようにしぶきだらけに書いているような人があるが、それは絵描きの得意とする分野である。字など書かずに波をデッサンしてもらいたい。
草書 額 半切1/2ヨコ
出典 白居易
制作 1964
番号 00057
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2010/02/06
白雲青溪

白雲青溪(はくうん せいけい)
杉板に隷書の書刻。文字の顔料は白緑(びゃくろく)である。この作品はどこかへ「嫁入り」して私の手もとにはこの写真しかない。寸法や制作年代も推測するしかない。
杉板に彫るには小刀の「切り回し」ができないと難しいので、このサイズの作品は世の中にもそう多くはないはずである。「切り回し」とはノミや木槌を使わず、小刀一本で深く切りつける刀法である。木目が硬く刀の進行を阻むから、これはやってみなければいかに難物かはわからないであろう。
隷書 書刻 杉板 120×30(推定)
出典 とくになし
制作 1976(推定)
東京 個人蔵
番号 天00056
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2010/01/23
行到水窮処 坐看雲起時
行きて水の窮まる処に到り
坐して雲の起る時を看る(王維)
水の窮まる処とは水源地、つまり頂上付近であろう。同時にそこは雲のわき起こるところである。
王維の詩はビジュアルで映像がストレートに伝わってくる。王維自身も絵を描いたらしい。釈清潭という注釈家はこの詩を「王右丞の最も傑出せるもの」と絶賛している。王右丞(おうゆうじょう)とは王維の官職名で、王維の詩集も『王右丞詩集』という。
何でもそうだが、物事の本源に迫り、そこに視点を据えたとき、はじめて世界が開け、新しい発想、あらたな視野がむくむくとわき起ってくる。(今は新年ですから、逼塞した世情のなかで、こんなふうに解釈したいですな。)
草書字形についてちょっと補足すれば、「処」は略さずに書くと「處」。下の「処」を古くは「匆」と書いたのでこのような形になる。二行目のあたまの「看」は「手」と「目」の合字だが(手をかざして見る形)、「手」のヨコ線を点々と書くので、知らない人は何の字かわからないであろう。「目」は最下部のヒッカケ(小さく「フ」とあるところ)で表す。「雲」のアメカンムリのすぐ上に位置している。
この書の特徴はすべての線をつないでいるところである。(天溪としては珍しい。)二行目のように、つなぎの部分をわざとかすれさせ、字のあたまで墨量を回復させるといったハナレワザを見せている。運筆のスピードをコントロールできる高等技術だから、この作品は「プロうけ」をねらったわけである。このつなぎ方の「しかけ」を知れば、上に補足した「看」の「目」の位置がやけに下になっていることも「ははん、なるほど」と思うであろう。
草書 立軸 紙本濃墨 半切1/2
出典 王維「終南別業」
制作 1975
番号 天00055
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2010/01/09
錬薬空求仙 読書兼詠史
薬を練って空しく仙を求め
書を読んで兼(ま)た史を詠ず(寒山)
丹薬を飲むと仙人になれるというので、一生懸命に薬を練っている。読書して歴史を知り、それを詩に詠じたりする。
どちらの行為も俗人にありがちのことだ。わかったつもりでいても空しい。寒山の俗界にあったころの反省。
錬は練習の練(糸ヘン)にしている。金ヘンよりよいと考えたのであろう。
「仙」の旧字は「僊」である。
「兼」は軽い接続詞(and) だから、「また」と訓じてみた。
草書 半切 紙本濃墨
出典 寒山
制作 1970
東京 個人蔵
番号 天00054
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2009/12/19
清泉石上流

清泉 石上に流る(王維)
王維のこの詩はこのギャラリーのはじめのほう(番号00018)にもある。「明月松間を照らし、清泉石上に流る」の後半である。石上「を」でもよいかと思う。送りがなは好みの問題で、「松間に照り」とも読める。王維の詩らしくビジュアルである。これは「天溪書作集(1993刊)にも収録している。
ズ太い行書でズカリと書いている。石という字の斜めの線を活かして左下に泉の水を導こうとしている。紙面に文字をどう散らすか、という工夫が問われるわけである。
行書 茶掛 20×34/89×45
出典 王維
制作 1981
番号 天00053
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2009/12/02
遊依二室成三友 住近雙林當四鄰

遊は二室に依りて三友を成し
住は雙(双)林に近く四鄰に當つ
(白居易)
白居易は数字が好きで数遊びの詩が多い。これなども「二室」と「双林」、「三友」、「四鄰」と使い分けているところがミソ。
「游」は自分の楽しみ。詩と琴と酒の三つを友としている。その住まいは二つの林が近くにあり、家が取り囲まれて四方に隣接しているということらしい。「林」と「鄰」の音を合わせたのである。晩年の落ち着いた心境が、こんな数合わせの観察を可能にする。
「鄰」のコザトヘンは「邑ユウ(むらの意)」からきているが、「説文」の篆書では右に置く。金文では左に置くので、そのほうが古形なのであろう。現行の活字「隣」は「説文」によらない古形をとっていることになる。
「丁未新春」は1967年。天溪55歳の作。鳴鶴ばりの硬質な隷書で、まだ天溪隷書の完成には至っていない。
長くしまっていたので巻きグセがついている。たまには下げて表装を休ませねばならない。
隷書 立軸 半切
出典 白居易
制作 1967
番号 天00052
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2009/10/31
信足幽尋遠 臨風却立驚
足に信(まか)せて幽尋すること遠く
風に臨みて却立して驚く
(王安石)
「幽尋(ゆうじん)」はひそかに尋ねること。幽境を求めて出歩くこと、である。「却立(きゃくりつ)」は立ちすくむこと。
足にまかせて遠くまで来てしまった。突然の風に出会ってビックリして立ちすくんでしまった、という図柄であろう。孤独な探索が思わぬ風によって中断された驚きをとらえている。
茶墨は雰囲気が出るので天溪は好んで使った。隷書は本来は横長の字形だが、これは意識的に正方形に納めている。そのために幽や尋はスマートに見える。たっぷりした墨量の部分と、かすれとを交互に配して、緻密な造形手法を見せている。
隷書 紙本茶墨 半切 1/2額(本体 34×67)
出典 王安石
制作 1973
番号 天00051
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2009/08/21
六合嘉辰太平楽

六合(りくごう)嘉辰(かしん)太平楽(たいへいらく)
六合は東西南北と上下の天地四方すべて。嘉辰はよき日。これらすべてが太平楽である。おおいにめでたい。
杉板に丸彫り。朱の上に金砂子という手の込んだ作品である。
この作品ギャラリーも番号50になりました。天溪・友子・大・会員の4項目なので、200作品を紹介、解説したことになります。少しでも書作鑑賞のご参考になれば幸甚です。「書苑へのメッセージ」の欄を設けているので、ご感想をお寄せください。解説の不備なところは訂正します。
篆書 書刻額 彫込 丸彫 金砂子
出典
制作 1981
番号 天00050
作者 : 1.岡村天渓
掲載 : 2009/07/19
