岡村大の作品
辞能響応
辞(ことば) 能く響応す
響き合う言葉というものがある。
「行ってまいります/行ってらっしゃい」「ただいま/おかえり」など。
こういう辞(ことば)が行き交う社会こそ、おくゆかしく、民度が高いと言えるだろう。見知らぬ人に声をかけるな、と子供に教えなければならない今の社会を、大人の一人として恥ずかしく思う。かつて日本中に見られたこのような言葉の響応は無残な「マニュアル店員言葉」に替わりつつある。
辞とは挨拶ばかりではない。詩人は言葉の韻律に響応を仕組む。辞は字でもあるから、線の組み合わせにも響応の美があるであろう。
元禎墓誌銘(北魏)の楷書に面白みを感じて薬研彫りを試みた。文字同志を響応させるために苦心するのはもちろんだが、一番の難関は落款印の位置で、ここしかない、とばかり決め込んで彫ったわけであります。
板はタモである。木ヘンに弗と書く。ちなみに木ヘンに佛は「しきみ」、キヘンに神は「さかき」である。どちらも国字であろう。かなり重いので覚悟して彫ったが、案の定、堅い板であった。塗りむらがあるのはオイルステインの塗りが下手なのではなくて、下地板のメドメの甘さが災いしたのである。こしらえの段取りに、わずかな手抜きが、あとになって顕れる。まことに板というものは恐ろしい代物である。
活字の「辞」は略字で、「辭」が正。ただしツクリの辛(しん)の下は伝統では二本書く。「能」も活字形とは違い、このほうが伝統に即した楷書。「応」も略字で「應」が正しい楷書。
楷書 書刻 扁額 タモ板 薬研彫 58×15
出典 とくになし
制作 2006
番号 大00080
作者 : 3.岡村大
掲載 : 2010/06/27
