
目次:岡村大
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171 青山忽巳曙 鳥雀繞舎鳴
青山 忽ちにして已に曙け 鳥雀 舎を繞りて鳴く(韋応物)
行書 紙本濃墨 17×100
出典 韋応物
制作 2015
番号 大00171
気がついたら朝の雀のさえずりが、失せていた。私の杉並の実家である。
カラスが残飯をあさるので閉口した杉並区がゴミ・ネットを徹底したおかげで朝ガラスの騒音とゴミの散乱はなくなった。同時に小鳥も姿を消した。明け方になるとあんなにチュンチュン鳴いていた雀が今はいない。スズメが生きられない都会になってしまったのか。
韋応物のこの詩は『唐詩選』の五言古詩にある。今となっては懐旧の心。私の鎮魂の気持ちということになる。
作者 : 3.岡村大
掲載 : 2015/11/25 上に戻る
170 王子の申
王子の申(しん) 嘉嬭(かび)の盞盂(さんう)を作る
其れ眉壽無期(びじゅむき) 永く保として之を用いよ (東周金文)
篆書 金文 紙本濃墨 72×72/42×42
出典 東周金文
制作 2015
番号 大00170
東周の金文。盞(さん)という青銅器の蓋(ふた)に記されている。
王子の申がこの青銅器を作ったのでなく、王が作って王子に与えたものであろう。
「嘉嬭」は美称で、「すばらしい盞盂」。
「眉壽無期」は決まり言葉で、延年益壽と同じ。
「保」は「たもつ」の意でも通ずるが、「ホ」が「寶」の仮借字と考えて書道全集では「たから」と読んでいる。
語順は(1)行目「王子申乍(作)」(2)「嘉嬭盞」(3)「盂其眉」(4)壽無其(期)(5.)永保用之である。
私のエッセイの挿画として使うために書いたもので、孔子時代の金文を筆で書くとどうなるかという試み。いちおう臨書なので関防印は「臨」とした。
作者 : 3.岡村大
掲載 : 2015/11/14 上に戻る
169 獨倚青冥望八荒(王安石)
獨り青冥に倚り八荒を望む(王安石)
「青冥」はあおぞら。ただし「冥」は「瞑目、瞑想、冥土、冥界」の冥で、どちらかと言えば目をつぶったイメージ、冥界の空を意識しているので、単なる青天ではなかろう。
「八荒」は八方の地の果てそこは宇宙洪荒と言うように、荒れまくっていると考えられていた。
ただひとり青空のなかに突っ立って八方の地の果てを眺めている。私が死んだあとの冥界の空に依拠してこの地球のなれの果てを思う。そこは荒廃して生気のない無秩序な状態であろうか。それを思うと恐ろしさが忍び寄る。
王安石がこの詩を作った南京の台城は梁の武帝が滅びた地であり、南朝最後の皇帝、陳の後主もここに滅んだ。一時はめでたい運気があったところもこんなジンクスがあるのではかなわない。宋の宰相を務めた王安石にとっては後世を悲観的に眺める気分になったのであろう。北京の汚染された空のもとでマラソン大会が行われた。王安石の時代の青空はまだまだきれいだった。今の為政者は来るべき「八荒」をかいま見ようとは思わないらしい。
隷書 書刻 タモ板 紫根染 峰彫 胡粉
18×89
出典 王安石『次韻舎弟賞心亭即事二首之其一』
制作 2014/ 番号 大00169
【Literal interpretation】 I stand still(獨倚) under the blue sky, I have pitiful feeling towards the end of the world now-a-days.
※靑冥(sei-mei):blue sky, suggest the world after death /
※八荒(hak-ko):desolated landscape of utmost end of the world towards eight directions/
隷書(Rei-sho):classical script,second one of five letter-styles(五書体)/ 書刻(sho-koku): wood carving of calligraphy/ 楹額(ei-gaku): tablet hanging style/ タモ板(tamo board):ash/ 紫根染 (shikon dying): dye purple colour on surfice of board. Shikon is plant-derived dyes (lithospermum root)/ 彫込(horikomi):carve letters in intaglio/ 峯彫(mine-bori): method of carving, sharpened center of letter./ 胡粉(go-fun): white pigment, made in shell/ 出典:souce: poem by Wang-baishi (王安石
1021-1086)/ size:18×89cm/ 2014/ No.大00169/
作者 : 3.岡村大
掲載 : 2014/10/17 上に戻る
168 壮哉造化巧
壮(さかん)なる哉 造化(ぞうか)の巧(李白)
自然が作り出す壮大な景観に畏敬の念を抱くことが見直される時代になったことは嘆かわしいとも言える。「世界遺産」というようなタイトルをつけねば保存すらおぼつかなくなった。人類はそれほどに自然を蹂躙してきた。ダイナマイトの発明者がくれる賞と賞金とがあがめられているのが現状なのだから。
「巧」は詩では「功」となっている。功績、功労、年功、など「功」の字はどうも人間臭さがつきまとうので、李白は本来は「巧」としたはず、と勝手に憶測して「巧」とした。
篆書 書刻 桜板 枠浮出彫 金箔押 岩緋 21×34
出典 李白
製作 2014 新年謹作
番号 大00168
作者 : 3.岡村大
掲載 : 2014/01/16 上に戻る
167 好雨知時節
好雨時節を知る
春に当りて乃ち発生す
風に随い潜入する夜
物を潤おして細やかに声無し
(杜甫『喜雨』)
すでにこの詩は私の「コラム」で取り上げたので、内容についてはそちらもご覧ください。(168~170)
「時節」という季節の変わり目を自然はちゃんとわきまえている、という観察。「好雨」は日本語でいえばさしずめ「よきおしめり」だろう。「乃(すなわち」は「さあ、これから、いよいよ」という幕開けの言葉。さあもの皆これから芽生えるときが来たぞ、と期待感でいっぱい。春雨はわが国でも「細やか」で音も無く忍び寄るもの。「春雨じゃ。濡れて行こう」という名セリフを思い出す。大地が潤い、これから緑が芽吹く。恋の季節でもある。この詩はこのあと四行あるのだが、同じ紙を用意して二幅仕立てにするつもりで前半をまず作ってみた。
篆書 書軸 紙本濃墨 28×58
出典 杜甫
制作 2013
番号 大00167
作者 : 3.岡村大
掲載 : 2014/01/09 上に戻る
166 可憐光彩生門戸
憐れむべし 光彩 門戸に生ず(白居易)
「可憐」は日本ではほのかな可愛らしさを意味するが、中国では「スバラシイ、スゴイことだ」という誉め言葉である。これは白居易の「長恨歌」に出る句で、楊貴妃の出た楊家一族が取り立てられてめきめきと権勢をあらわし、その勢いが光彩となって門のあたりにまで輝いている、というくだりである。詩のコンテクストはともかく、光を放つような明るさのあふれた玄関が庶民の戸口にほしいものである。不景気な世の中だから書ではパッとした言葉を選ぶのである。
この紙は扇面を白く漉いたもので、ちょっと変わっている。
隷書 書軸 扇面濃墨 53×37
出典 白居易「長恨歌」
制作 2013
番号 大00166
作者 : 3.岡村大
掲載 : 2013/12/25 上に戻る
165 猿来樹嫋々
猿来って 樹 嫋々(じょうじょう)
鳥入りて 林 啾々(しゅうしゅう)(寒山)
「嫋々」は木の枝がしなう音。ゆさゆさ。
「啾々」は鳥のさえずり。チュンチュン。
漢字を二つ重ねて擬音(onomatopoeia)を表す。この詩は颯々、怱々、漫々などに満ちていて面白い。そういえば上野のパンダも漢字を二つ重ねた名前を踏襲している。ちょっと可愛らしさがあるのであろう。
行書 書刻 小額 栓板 彫込 平彫 拭漆仕上 25×30
出典 寒山
制作 2002
千葉 S氏蔵
番号 大00165
作者 : 3.岡村大
掲載 : 2013/07/18 上に戻る
164 心泰身寧是帰處
心泰く身寧きは是れ帰する處(白居易)
163の扇面と同文。短冊形のケヤキ板(拭漆仕上)に彫った。杢目を見せるために、青い塗料をかけて少し光らせている。このような板は使い勝手がよく、小品にするには便利である。ただし額は誂えねばならない。
篆書 小額 書刻 欅板 平彫 拭漆仕上
16×56/10×50
出典 白居易
東京 K氏蔵
制作 2002
番号 大00164
作者 : 3.岡村大
掲載 : 2013/07/11 上に戻る
163 心泰身寧是帰処
心泰(やす)く 身寧(やす)きは是れ帰する処(白居易)
心身ともに安泰、安寧であれば申し分ないわけで、「帰」とは「あるべきところに落ち着く」ことを意味するから、それが人間本来の望ましいありようである。しかしこれがまた至難の技で、心泰身寧を全うできる者などあるのだろうか。
白居易は晩年宮仕えから解放された。そこで故郷に戻って「是れ帰する処」などと強がりを言ったが、定年退官しても問題解決にはなるまい。やはりこれは永遠の願望なのである。
扇面に書いたが写真が不鮮明でいずれ撮り直しせねばなるまい。
篆書 成扇 金箋紙濃墨 45×26
出典 白居易
関防 涼風
制作 2002
番号 大00163
作者 : 3.岡村大
掲載 : 2013/07/07 上に戻る
162 波閑戯魚鼈 風静下鴎鷺
波閑(しず)かに魚鼈(ぎょべつ)戯れ
風静かに鴎鷺(おうろ)下る
白居易「閑居自題」
對聯(ついれん)にして額に入れた。「鼈(べつ)」は「すっぽん」のこと。意味は平易で言うまでもなかろう。白居易は晩年このような水辺に近い、のどかな洛陽の一角に隠棲していた。
板は青森ヒバ(檜葉)の柾目。彫りは浅平彫り。厚みがあったので、額に2/3ほど埋め込んでいる。
ヒバは「ヒノキアスナロ」とも言われる。「明日は檜になろう」というイジケた名前が「アスナロ」で、材木の王者・ヒノキに似ている。ともにヒノキ科。しかしヒバもアスナロも明日も明後日も檜にはなれない。葉裏で見分けるらしい。
板としては良材で、きめ細か。平泉の中尊寺はヒバ造りだという。
楷書 書刻 聯額 ヒバ(檜葉)板 彫込 浅平彫 胡粉
56×76/10.5×42×2枚
出典 白居易「閑居自題」
制作 2013
番号 大00162
作者 : 3.岡村大
掲載 : 2013/05/31 上に戻る