5 筆録の系譜 14)ピートリー・パピュロス
しかし失われてしまったと云っても、パピュロスに書かれたプラトン写本が発見されていないわけではありません。
19世紀にエジプト学者ピートリーは、カイロの南モエリス湖のオアシス付近から「パイドン」と「ラケス」の一部を発見しました。この写本はピートリー・パピュロスとよばれ、書かれたのは前4世紀から3世紀初めごろと推定されました。プラトンの歿後50~80年しか経っていない、圧倒的に古いものでした。
待望の新資料です。「得たり」とばかり学者は解読に取り組みました。中世写本を書き改める新しい記載があるのではないか、と期待したのです。ところが、このパピュロス本は案に相違して誤記、脱落が多く、解読のためには9世紀以降の中世写本に頼らざるを得ないことが明らかになったのです。これでは折角の新発見も役に立ちません。
何のことはない、「後世の中世写本」のほうが「古くて悪いパピュロス本」よりも資料的価値がある、そう学者は結論しました。
このことはプラトン研究者の期待と失望を物語っていますが、このエッセイのテーマにとってはなかなか興味深い失望です。果たして「もっといい写本があったけれど、もろくて失われ、役立たずだけがかろうじて生き残った」のでしょうか。
掲載日時 2010 年 08 月 05 日 - PM 01 : 55
- 前の記事:5 筆録の系譜 13)筆写本
- 次の記事:5 筆録の系譜 15)ベルリン・パピュロス
