5 筆録の系譜 13)筆写本 - エッセイ論文

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5 筆録の系譜 13)筆写本

 ここでプラトンの筆写本という少し立ち入った話になります。私は一介の書家ですから、田中美知太郎先生の『プラトン I 生涯と著作』(岩波)の記述を頼りに話を進めたいと思います。

 プラトンの著作は『プラトン全集』に収録されていますが、活字印刷本となったものは、古くともせいぜい16世紀のヴエネチアのアルド版(1513)がある程度で、それ以前のものは見当たらないようです。

 それより古い筆写本は、オックスフォードのB写本とよばれるものがあり、そのコロフォン(年記)によれば894年の羊革紙の手書き本です。これはイギリスの旅行家クラークがエーゲ海のパトモス島・聖ヨハネ僧院で発見したもので、今のところ現存写本ではこれが最も古いとされています。

 つまり9世紀のものです。プラトンの歿(347bc)後、何と1200年以上も経っているのです。これ以前のプラトンの著作は「失われてしまった」とされています。なぜこれほどの長期間にわたって残っていないのでしょうか。多くの学者はその理由を当時の書物の「もろさ」にあると考えています。古代の書物はパピュロスでできたものが古く、紀元4世紀以降になると羊の皮を材料とした羊革(皮)紙が使われ始め、中世の写本はこれが主体のようです。

 パピュロスはエジプトで考案された世界最初の紙で、パピュロス(かやつり草)の茎の皮を剥ぎ、髄を平たく伸ばして作られます。湿気に弱く虫がつきやすく長持ちしません。羊革(皮)紙も同じように湿気と虫には弱いようです。これがプラトンの著作が1240年間も失われていた原因だろう、というわけです。


掲載日時 2010 年 07 月 29 日 - PM 06 : 18

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