4-20 扇面考 扇面の向き
日本人の自由な形態感性のなかで、特に注目してよいのは「扇面の向き」です。普通は真横に置くのですが、それに捉われずに自由な向き方を積極的に考えたのです。
右の作例は軸の中廻しに白い紙をベースとして、そこに扇面を右に傾けて置いています。このような布置法は決してイレギュラーなものではなく、よく見られる形です。もっと立てて仕立てている作品もあります。扇面形はそれ自体が完結した美しさを持っていて、縦置きにしたらサマにならない、というものでないことがわかります。もちろん、扇は常に手のまわりで動いて、あちらこちら向きを変えて見せるものでもありますから、さほど違和感がなかったのでしょう。
そこで字のほうもあらかじめこの向きに仕立てる、ということを前提にして、紙面を組み立てねばなりません。傾いている紙面に線の流れをどう書いて、視線をナチュラルに導くか、バランス感覚が問われます。
そのようなバランス感覚、線の流れのセンスはどのようにして磨くのでしょうか。これは字形の形体模倣ばかりしていてもダメです。もっと根本的な美的センスをどこかで培っておかねばなりません。つまるところ日常の気配り、美しいものに対する敏感な神経、といったところに帰着するものなのでしょう。
王朝時代の書人たちは花や紅葉や、ホトトギスの初音、貴公子の一語に、鋭敏に対応できるすぐれた感性をたえず心がけていて、お互いにセンスのよさを競ったのです。書の背後にある磨き抜かれた生活感覚を見逃してはなりません。
掲載日時 2010 年 01 月 16 日 - PM 03 : 11
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