37 文字看板めぐり(16)一哉堂≪川端龍子≫

築地の「ちとせ」の看板は既にご紹介しましたが、同じ川端龍子(1885~1966)の書になるものが、銀座にもうひとつあります。銀座5丁目の画廊「一哉堂」です。
「一」を思い切り太く、後半に筆力をちょっと抜いて単調になるのを避けています。「哉」の最後の点がユーモラスで、アポストロフみたいに見えます。字書きなら「点」だと思っていますから、こんなしゃくれた形には書きません。やはり画家の発想はユニークです。
板はケヤキで、彫りは浅く文字部を浚っています。「ちとせ」と同じ彫り方で、同じ人が彫ったものと思われます。ただこちらは胡粉を文字に入れています。私の見るかぎり、この彫りの浅さはあまり慣れていない人の仕事でしょう。専門家なら、刀が板に負けることなく、もっと鋭く切り込めるからです。これほどの板になれば刀を跳ね返すほどの力を持っていて、殊にケヤキは堅さが身上の材ですから、刃物は何度も研ぎすましてとりかかります。よく見るとサカ目になっているところで彫りが乱れています。ことによると龍子自身の彫りかもしれません。
だからいけない、と言っているつもりはありません。浅い彫りも品の良い趣があるものです。乱れ彫りだから看板屋の「カマボコ彫り」より面白い、ともいえます。私は龍子の絵が大好きです。あれほど絵の上手な人が、書にも関心を持っていたというだけで充分です。ですから、この看板は私の愛する名品のひとつです。
■一哉堂画廊 東京都中央区銀座5-4-14 画廊ですからご主人と龍子画伯との交流があったものでしょう。
掲載日時 2008 年 11 月 23 日 - PM 03 : 40
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