32 文字看板めぐり(11)有便堂《日下部鳴鶴≫

有名な看板ではここが第一でしょう。日本橋の書画材の老舗「有便堂」です。日本橋三越の向かい、中央通りを渡って一本目の右角にあります。すでに多くの本に紹介されているので、ご存知の方は多いと思います。
前回、前々回に取り上げた丹羽海鶴の師匠である日下部鳴鶴(くさかべめいかく 1838~1922)の隷書です。明治の偉大な書家・鳴鶴については今更のべるまでもありません。硬質な、いかにも鳴鶴らしい隷書です。
二字目の「便」は『説文解字』の篆書字形にもとづいて、唐の時代に「便」の正字とされたもので、私は「人為的な昔がえり」だと考えています。人為的とは「国策としての」という意味です。自然発生的な字形ではなかったのです。したがって余り定着しませんでした。今も残念ながらパソコンの文字変換ができません。
ゆう「べん」どう、と読むのですが、「びん」と読む人が多いらしく、下に「YUBENDO」とローマ字で大書してあるのが、いささか日本画材の店としてはバタ臭く、鳴鶴の書の雰囲気を損ねています。(cf.作品紹介の岡村天溪、番号天00023の「更」の字が篆書字形)
鳴鶴の石碑は日本中にありますが、木刻看板は多くはないようです。恐らくこの看板の彫りは当時、虎ノ門にあった「海鴻堂」の仕事ではないかと推測するのですが、取り外して裏を見ないかぎり確かめられません。また見られたとしても彫師の名は刻まれていない可能性も高く、このあたりの事情はいずれ述べたいと思っています。
■有便堂 中央区日本橋室町1-6-6 ℡ 03-3241-1055
掲載日時 2008 年 10 月 05 日 - PM 04 : 03
