510 教室の活動(5)書刻作「鉄漿染め」
工程(4)の「鉄漿染め」です。
鉄漿は「かね」と読めますが、一般的には「おはぐろ」として知られています。 江戸時代の既婚夫人が歯を黒く染めるのに使った染料です。なぜそんなケッタイなことをしたのかはともかく、この染液は栗のイガと錆釘を煮出して得られます。(右図上) 江戸時代の「おはぐろ」は茶と釘を煮出して「ふしこ(五倍子粉)」という樹液を乾燥させた粉を混ぜ、寝かせて発酵してから用いたようです。茶も釘もふしこもタンニンを含み、これが黒く発色するのです。
これを塗布して栗の木の肌色を地味な色合いにします。一気に真っ黒にするのではなく、塗り重ねて丁度良い頃合いでやめます。右図中は一回目 9/12 。最終的には三度塗りとなりました。(前項509の写真)
栗の木に栗のイガですから相性は抜群です。「板染め」はかつては盛んに行われました。正倉院に伝わる「蘇芳染め」がよい例です。しかし優秀な漆の登場によって被膜で覆う塗装が主流となり板染めは影をひそめました。「染め」はもっぱら布、糸に対して行われるものとなっています。私は蘇芳染めをはじめ黄檗(きはだ)染め、欝金(うこん)染め、藍染め、紫根染めなどを板に試みてみました。
染めのよいところは板の内部に色が浸潤するので杢目がおかされないことです。また左右の外皮の部分を残し、ここを黒くすることで自然の縁取りを演出します。このやわらかな曲線が作品に落ち着きをもたらしてくれます。
右図下のスナップは 9/19 に右側の外皮を塗っているところ。
どれも黙々とする作業。手指の消毒以外は安全です。道具は皆が使うので一応注意しています。
語句は「世は萬雲を載せるも朝光来たらん」。意味は「世の中にはいろいろな雲を推戴してもめているが、いずれは朝日がさすことを期待しよう」。コロナ下の述懐です。
掲載日時 2020 年 10 月 01 日 - 午後 05 : 37
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