565 國譯漢文大成 正續成(4)洋書が手本
作者の推測に気を取られて肝心の「書家の装幀」について話すのを忘れていました。
和綴じの本ばかりに表題を書いてきた書家にとって、洋書の体裁は全く未知の世界でした。和綴じに背はありません。その背に表題が移り、表扉から表題が消えたのです。そもそも和本には厚みに限度があり、糸でかがるためにノドが必要でした。紙の厚みが増すと開きが悪くなって閉じる力が増します。和綴じの本に厚いものがないのはそのせいです。ところが洋書は紙を閉じる側に折り、そこに糸を通すのでノドがなくなります。厚さ5センチもの幅の広い背が可能になりました。幸いなことに漢字は縦書きです。この点では洋書より優位にあります。
右図はぶ厚いドイツの本ですが、上下に模様を配してまとめています。出版社は本の中味を発行するだけで、購入者が分冊をまとめて製本に出す、というのがヨーロッパのやり方で出版社が製本まで手がけるのは洋書の製本という業種がなかった後進国だったためでしょう。明治の製本業者は洋本を頼りに和製の背表紙をデザインしました。「國譯漢文大成」もこの流れに従ったまでで、ごく普通の仕事をしたのです。
この形式は下図の「大正新修大蔵経」(大正13年1924年~1934年)や「諸橋漢和」「書道大字典」などにも踏襲されています。「諸橋漢和」に至っては装飾過剰の気味があります。もとに戻って「國譯漢文大成」はすっきりとしていてセンスの良さが光ります。
左: 「大正新脩大蔵経」、大正一切経刊行会編纂した。朝鮮海印寺の高麗版の再彫本を底本としている。
中: 諸橋徹次の「大漢和辞典」全13巻。鈴木一平の大修館で出版。1925年から2000年まで75年をかけた。
右:「書道大字典 上下(伏見沖敬)」書道関連の字典の定番。
掲載日時 2021 年 08 月 26 日 - 午後 05 : 21