563 國譯漢文大成 正續(2)謎の筆者
私は長いことこの隷書は中村不
折が絵と共に書いたものと思っていました。今あらためて調べてみるにどこを捜しても誰が書いたのか記載されていません。不折なら書道博物館にも何らかの展示があるでしょう。鶴田久作の交友範囲は広く、幸田露伴をはじめ漢学者、文人の名がありますが書家との接点が見えません。これは困った、ご存じのかたはお教えください。字は明らかに「張遷碑(186AD)」を学んでいます。右に該当字を拾ってみました。(「大」は天の下部から。)
しかし大正期に「張遷碑」など見ることの出来た人は拓本を入手した中村不折(台東区書道博にある。)以外には、三井聴氷閣に出入りした巖谷一六や日下部鳴鶴しか考えられません。鳴鶴だったらとうにその書稿が紹介されていてもおかしくないのに、ありません。書者は「経子史部、史記本紀」なども筆書していますから、かなりの数を書いています。しかも上手い隷書です。鳴鶴がこの碑を高く評価し、不折が「爨寶子碑」を挙げて対立したことは喧伝されています。この隷書は不折の面白さがなく鳴鶴風です。ともあれこれはプロの書家の、しかもかなりの学識のある人の手になったものです。私は鳴鶴の可能性もあると思います。
掲載日時 2021 年 08 月 23 日 - 午後 02 : 07