562 國譯漢文大成(正續)(1)書家の書く表題
書家が書いた極めてスタンダードな洋書の装幀本で、541からはじめたこの稿を締めくくろうと思います。
大正9年、国民文庫刊行会の『國譯漢文大成』です。全88冊。正編と続編とからなり、『續』は昭和3年から経史子部24巻、文学部24巻。天金菊版。テンキンとは埃がつきやすい本の上方の小口(こぐち、天という)に金箔をはりつけて拭き取りやすくしたもの。最近はこんな贅沢本はなくなりました。漢字だらけの地味な本が売れに売れました。刊行会創業者・鶴田久作(1874~1955)は予約出版で販売経路を通さず出版し、当時としては画期的でした。
鶴田久作は山梨県生まれ。博文館で編集を身につけ、1905年(明治38)神田小川町に玄黄社を創業、1909年(明治42)国民文庫刊行会を設立。『泰西名著文庫』『泰西近代名著文庫』『国訳漢文大成』『国訳大蔵経』などを出版しました。
さて、上図左、本の背の上下に箔押で図案、表題は隷書です。背表紙向かって左にも、やや大きな渦巻模様の下に空押しの人物。「續」は虎の図。クロスは「續」がやや明るい色。中央図見開きは正倉院風の花鳥画と樹下の人物像(續)です。右背表紙は「国民文庫刊行会」の印が空押しされています(次項に写真あり)。頁をめくると(右図)隷書のタテ一行書き。「史記、経子史部、第十三巻」などの各巻の内容は背は手書き、表題頁では活字。ごく普通の装幀です。普通も捨てたもんじゃありません。
掲載日時 2021 年 08 月 20 日 - 午後 03 : 51
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