561 恩地孝四郎の装丁
恩地孝四郎(1891 明治24
~1955 昭和30)は東京美術学校予備科西洋画科志願に入学。黒田清輝の白馬会に学び、本の装幀はアルバイトだったようです。室生犀星や北原白秋と知り合い、大正期末から昭和初期までに装幀家の地位を確立しました。
1920年の「性に眼覚める頃
(室生犀星)」(右図)は思わせぶりな図柄にトゲトゲの字を配したセンセーショナルなもの。売名的であまり感心しません。
しかし「飛行官能(昭和9)」(中図左)は初めて飛行機に乗った感動を自身の詩と木版画を組み合わせて制作した版画詩画集。文字はモダンなセンスとなっています。
「どんたく」(中図右)は竹久夢二著の絵入小唄集。1913年出版。文字は伝統的な左書き。シンプルにまとめています。
戦後は版画に活路を見い出し、創作版画倶楽部を設立してまだ低い地位に甘んじていた版画を美術のジャンルに加えることに尽力しました。すでに見てきたように棟方志功のような板(版)画家と装幀とが良きマッチングを示すことも前項の挿画と並んで注目したいと思います。雪岱も武井武雄も版画家でした。
下図室生犀星「蒼白き巣窟」は「篆書」です。装幀の文字としては極めて珍しい。字形には書家から見ると問題もありますが、その開拓的精神は評価できます。
掲載日時 2021 年 08 月 20 日 - 午後 03 : 04
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