560 初山滋の装丁文字
武井の次は初山滋(1897
明治30~1973 昭和48)です。子供のころ空中遊泳したようなこの絵が好きでした。八十歳を目前にした今この字を見ると、やはりふわっと空中に浮いたような不思議な無重力感があり、絵柄とマッチしています。
代表作は1937年「たべるトンちゃん(中右図)」。
1967年(71歳)の絵本「もず」(下右図)で国際アンデルセン賞国内賞を受賞しています。
初山の出発点は着物の染色下絵です。やがて明治大正にかけての口絵画家、版画家であった井川洗厓(せんがい)に弟子入り。大正5年「少年倶楽部」の口絵、「おとぎの世界」の挿絵でみとめられ、武井武雄と童画の双璧となりました。
私は洗厓の影響が大きかったのではないかと密かに思っています。というのも洗厓の挿画(次ページ下図)には初山につながる共通点があるから
です。バランスのよい構図です。 また小村雪岱も挿絵画家でした。武井も初山も童話の挿し絵から出発し、やがて雪岱のように装丁の分野に腕をふるいました。挿画は出版社との仕事ですから、そこに装丁との接点があります。このエッセイは装丁について語るのが主ではなく、文字のデザインという視線で装丁を取り上げています。 文字に目配り、気配りがない装丁に興味はありません。文字デザインに本腰を入れた画家がそろって挿画と関連していることは注目すべきでしょう。
掲載日時 2021 年 08 月 20 日 - 午後 01 : 42
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