550 佐野繁次郎 横光利一「機械」の装丁
同じく佐野繁次郎の装丁した「機械 横光利一」です。右はその外函。
表題の字は「銀座百点」のようにクレパスではなく、バックの薄茶色の上に推敲をかさねて油絵具で書き込んだような楷書。クレパスの茫洋としたユーモラスな字形とは打って変わった慎重な筆運び。本の背幅いっぱいに書いています。これが普通の活字だったら両サイドの画面に負けてしまうでしょう。 横光利一とのコラボはこれ以外に「旅愁」(原画は川端康成が所蔵)「刺羽集」「寝園」などもあります。
私は今「字のデザイン」に
字書きの視点を向けて書物の装丁を見ています。著名な装丁者は他にも多々ありますが、佐野繁次郎の業績は突出しています。下に二作提示しておきました。「字だらけ」のものとなるともう字書き顔負けです。
どこにこの違いが生ずるのでしょうか。書家が表題を依頼されるとそれだけを書いて渡し、あとの「おべべ」の処理はお任せなのです。しかし佐野繁次郎の頭の中は書物の「装丁」にあり、おべべではなく、総合的な視点に立っています。そんじょそこらの字書きなど「字描き」に適うわけがありません。
掲載日時 2021 年 07 月 20 日 - 午後 05 : 34
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