66 展覧会 6)出逢い
書道展は書を媒体とした集いでもありますから、面白い出会いもあります。稽古場が違っているために、旧知の間柄であっても展覧会場で会うまではお互いに知らなかった、ということも今回ありました。偶然同じ私に習っていた、というわけです。
以前私の個展でウイリアム・ブレイクの詩を書いたことがあります。英語を書いたのではありません。英詩の漢訳です。実はブレイクの英語を何と漢学者・鈴木虎雄が七言絶句に仕上げたのです。(国訳漢文大成の杜甫の注釈は鈴木虎雄です。あまりに面白い註なので吹き出してしまうことがあります。)訳を依頼したのが英語学の巨星・市河三喜先生だった、というのがこれまた役者がそろっていて面白く、話題性があります。
この訳詩をご教示くださった上智大学の巽豊彦先生は、その前の私の個展でシェリーの詩の中国語訳を書いた作品をご覧になって、「こんな資料もあるよ」とお送りくださったのです。市河三喜先生のご葬儀の際に配られたものだということでした。
そんな話を会場でしていたら「市河三喜と母は従兄弟同士だ」という友人がいて、驚いていると「あら、うちのお隣は市河さんよ。今は三喜先生の息子さんだけど」という人が加わって二度びっくり。書のとり持つ縁とでもいいましょうか。
そんなわけで、私は展覧会を「人との出会いの場」という位置づけもしています。私は会場にいらした方々をお互いの知己にするフィクサーなのです。
掲載日時 2010 年 05 月 21 日 - 午後 01 : 00
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