64 展覧会 4)芳名簿
書道展の最大の欠点は「芳名簿」です。私はこれを「諸悪の根源」と考えています。
主催者にとってはどなたが来られたのかを知る絶好のデータとなるもので、その展覧会の集人力を表す数字でもあり、次回の案内状送付の大切なリストとして役立つものです。はじめに述べたように、不本意ながら欠礼となることもあるので、それを知る唯一の手がかりともなります。記名されずに帰ってしまわれてはどうしようもありません。知らないうちに失礼の上塗りを重ねて臆面もないヤツになりたくはありません。
そこで受け付けの担当者は「どうぞご記名を」と熱心にせっつく、というわけで、真面目な行為ではあるのですが、基地返還の署名活動じゃあるまいし、これが大変、タイヘン問題です。だって、そこには筆と硯がレイレイしく鎮座しており、鳩居堂製とおぼしき和紙の芳名簿が開かれてあり、もっと嫌なことに、書のお弟子さん、恐らく出品者のひとりとも推察される「書道の得意そう」な人が、こちらの手もとを食い入るように見つめている、という逃げ出したくなるような羽目になるからです。
待ってました、とばかり筆を取る人はたいへん稀です。ほとんどの人が「書道展もいいけど、あの受付の関門だけは願い下げ!」「どころか最悪!」と考えているのでありましょう。これこそ書道展の致命的な欠陥であり、書道展衰退の元凶であります。
受付担当者には「さしつかえなければ私が代筆いたしましょう」と声をかけなさい、と申し渡しているのですが、これまでのところ誰も実行しません。字を書く人ですら拒絶反応しているのですから、あとは推して知るべしです。せっかくの「岡村ワールド」をお楽しみいただきたいのに、のっけから不快感を与えてしまっては、それこそ元も子もありません。
私はそろそろサインペンとメモ用紙だけにしようか、と考えて、そうしたこともあったのですが、「書道展なのにサインペンとは何事か」とお叱りをうけたこともあり、ほとほと弱っています。
掲載日時 2010 年 05 月 09 日 - 午後 02 : 55
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