36 木の文化(13)板を蘇芳(すおう)で染める
布が染まるように板も染まります。布は洗っても色が落ちないよう、何度もしっかりと染め付ける必要がありますが、板はゴシゴシ洗ったり絞ったりしませんから、まあ布よりは染めやすいわけです。植物性の染料なら同じ植物同士なので、板にもよくなじみます。
染めることのメリットは剥落しないことです。塗料は時間とともに劣化して剥がれる恐れがあるのに対して、染 カット篆書 染
めは板そのものの色となるので安心です。
そして何より木目を温存してくれるのが最大の長所です。またご存知のように染料には防腐、防虫作用のあるものが知られており、板材の保護という点でも副次的な効果があると思われます。
ケヤキやタモのような広葉樹は木目となっている脈管に染料が入り込むため、木目をくっきりと浮き出してくれます。板のままではボヤケていた木目が生き生きと表れてくるのは楽しいことです。逆にスギやヒノキのように堅く木目がつまっている針葉樹は、木目と木目の間がよく染まり、つける色によっては面白い表現が可能です。
正倉院の御物(ぎょもつ)のなかに「蘇芳地(すおうじ)」と書き表される琵琶や小机があります。渋い紫色を呈しています。黒柿(クロガキ)のような高級材が使われており、別格扱いされていたことをうかがわせます。これが板染めの我が国における最も古い遺品だと考えてよいでしょう。
この蘇芳というのが染料で、東南アジアに産する豆科植物の木の幹をチップにして、それを煮出してできる液なのです。国内にはない木(日本の花ズオウとは別もの)ですから、当時は貴重な舶来物でした。煎じ液は赤茶色で、これを板に塗っても紫色にはなりません。ここが面白いところで、媒染剤の助けが必要です。硫化第一鉄(FeSo2)がそれで、塗ると見る見るうちに紫の白鳳時代の色がたち現れるという寸法です。用例私の作品番号00004。
掲載日時 2009 年 04 月 26 日 - 午後 03 : 13