428 文字 ⑳「巫」という字 - 書道コラム

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428 文字 ⑳「巫」という字

 人が向き合っている面白い字があります。  
 「巫フ」という字です(右図1)。「工」という呪具をはさんで人が向き合うさま、神前に巫祝を執り行う巫女だとするのが白川説です。しかし字形からすればこの人はただの「人」です。巫女なら頭に何らかの特色を標さねばならないでしょう。たとえば男の巫者は「兄」のように、人の上部に「口サイ」(祝器)を戴いて          図1 巫
います。             
 ところで「巫」は甲骨文字と金文では右図2となって   
おり、どう見ても人が向き合ってはいません。下図3は『甲骨金文辞典』の該当箇所です。これを見ると「篆文」で、つまり『説文』で突然この形が登場しています。なぜこの形が導かれたかの根拠は全く不明です。甲骨文字も金文も知らなかった許慎が勝手に作り上げた字形だとしか考えられません。原初文字は          図2 巫
図2に近い字形だったはずです。               
 白川先生は許慎の字形を容 
認して、そこから前記の字義を
導きました。後世のしかも後漢に現れた根拠不明の字形から字義を説いても無意味です。恐らく後漢のころには隷書の「巫」が巫女を意味するように変容していたことの反映で辻褄をあわせたのでしょう。これでは許慎の思う壺ではありませんか。
 甲骨文、金文、許慎の篆書(小篆)の三つを並べるとこのように小篆で突然変異しているものがかなりあります。許慎のフィクション、悪く言えばデッチ    図3 『甲骨金文辞典』(水上静夫)
上ゲ、捏造品です。

 「工」は原初文字でも「呪具」だったのでしょうか。
宗教社会が歴史に登場し、神官や巫女たちの存在が高まった時代に「工」の意味が変容されたかもしれません。本来は単なる「工具」にすぎなかった原初文字が「呪具」となるのは、強大な国家が彼らの宗教性を為政に利用しようとした時代になってからでしょう。巫の字義も殷代後期の思惟を反映して「巫女」を表わす文字とされたのではないか、という視点を私は持ちます。
      
         


掲載日時 2018 年 04 月 13 日 - 午後 05 : 53

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