30 木の文化(7)ヤナセ杉 クセ者との格闘
高知県にヤナセ杉という銘木があります。「魚梁瀬」と書きます。江戸時代からの伝統を引き継ぐ貴重な杉です。土佐藩は特令によってヤナセの杉を保護し、 乱伐を防ぎました。おかげで数百年前に植えた杉の板が今もよみがえっているのです。伐採したあと、地中に埋め、埋もれ木とするのが最大の特徴です。半ば化石化したものを順に少しずつ掘り出して、ようやく材となります。高級製材なので薄くスライスして、主に天井板に用います。木目の立ち上がりが見事で、埋める場所によって、七色ありと言われています。
この板に挑戦したときのことです。杜甫の有名な五言絶句を彫り上げて、メドメを施し、いよいよ着彩にとりかかりました。乳鉢で白緑をたんねんに摩り下ろし、ニカワを加えて丁寧に塗ります。翌日、乾燥した色を見ると「色むら」が出ています。よくかきまぜないで塗るとウワズミで塗ったところが白っぽくなることがあります。それにはいつも充分な注意をはらっているので、そんなはずはない、と思うのですが、ヤニが出るのでしょうか。色ムラは明らかです。写真の「白山」と「日是帰」のところが白いのです。
この作品は何度も色をかけ直しましたが、とうとう直りませんでした。翌日に見るとやはり直っていないのです。あきらめて、なじみの額縁屋さんに持って行き、注文ついでに「ここのところが」と説明すると、やはり板に着彩することを仕事にしている彼は、即座に「そりゃ、ダメですよ。相手は何年生きてきたと思いますか。五十や六十のヒヨッコが小ざかしいことをしたって,たかが知れています。放っとくしかありません。300年くらい経てば板も観念するでしょうよ」と笑うのでした。銘木はさすがにどれもクセ者です。
(作品本体:31×144)
掲載日時 2009 年 03 月 12 日 - PM 08 : 50
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