25 木の文化(2)木を愛す
松本市内を歩いて気がついたことがあります。松本城の裏手、松本神社との間の通りにケヤキの大木が、包帯を巻かれて大切に保存されています。一本は注連縄をめぐらしていて、明らかに御神木です。道路はここまで来て左右に迂回しています。木のために道路が路を譲ったのです。何とおだやかな土地柄でしょう。東京なら「そこのけそこのけ」とばかり、伐採するか、移植させるかするところ、松本は「木のために」車が不便を受け入れたのです。
仙台では地下鉄駅のために青葉通りのケヤキが伐採されたそうです。駅の出入口など譲ればいいじゃありませんか。松本との民度の差は明らかです。あなたはどちらの市に住みたいですか?
巨木、大木を愛でる風習は日本各地に確固として残っています。春になれば桜の古木が人を集めています。大きい、太い、古い、というだけで、そのたたずまいが私たちの心を打つのです。人間の短い命と比べれば、その長い命は驚嘆に値します。まさに存在感のかたまり。敬虔の念にかられ、注連縄をめぐらすことに何の躊躇もありません。このような木を愛でる文化に私は誇りを持っています。恐らく、インドでもアフリカでも同じでしょう。しかし、旱魃がアフリカの地を砂漠化し、石の文化が、レンガ焼成が、木造船の建造が、羊毛産業が、ヨーロッパの森林を壊滅させました。
地球環境を復元すべく今世紀に入って、遅まきながらいろいろの取り組みが取りざたされています。技術的に、可能なかぎりの知恵をしぼることは目下の急務です。しかし、その底辺に「木を愛する心」を育てようとしないオロカな行政が、時代に逆行している現実があります。
私の仕事はささいなものですが、木を愛でる心とつながっています。いや、木を尊敬する気持ちというべきかもしれません。ケヤキに道を譲った松本の道路を見て、こみあげてくる嬉しさを今も禁じ得ません。
掲載日時 2009 年 02 月 21 日 - PM 05 : 16
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