98 風そよぐ
98 風そよぐ 奈良の小川の ゆふぐれは
みそぎぞ夏の しるしなりける (従二位 藤原家隆)
【現代語訳】
風がそよ吹く楢の葉のそよぎも清々しい。奈良の小川の夕暮れ時に、みそぎをする人々の姿も清らかな夏らしさであるよ。
【文字表記の注】
四行書きでスッキリと仕上げました。夏のただなかの歌とも取れる文面ですが、定家や家隆の置かれた環境は、すでに夏は終わっているのです。少しでも夏のなごりを求めるのなら、奈良の小川の「禊の神事」です。この神事は京都上賀茂の御手洗川のことで、奈良ではないのですが、「天智天皇」にはじまる「百人一首」は奈良朝もしっかりと視野に入れています。単なる夏の風物詩の歌ではなく、やはり「来ぬ人を待つ」歌と同様の、懐旧の「そよぎ」に耳を傾けねばなりません。
作者「じうにいゐ ふぢはらのいえたか」は藤原光隆の子。定家と並ぶ宮廷歌人。
掲載日時 2009 年 11 月 20 日 - 午後 01 : 50