94 みよしのの
94 み吉野の 山の秋風 小夜ふけて
ふるさと寒く 衣うつなり (参議 藤原雅経)
【現代語訳】
かつて都のあったみ吉野の山に、秋風が吹いて、今はさびれてしまったふるさとの夜は寒さが身にしみる。衣を打つ砧の音が、何ともものがなしいなあ。
【文字表記の注】
「蘇武が旅寝は北の国」と謡曲の「砧」にもあるように、衣を「擣(う)つ砧」の音は遠く離れた故郷の妻のイメージと重なるものがあったようです。かつての繁栄はすでになく、荒廃したふるさとのうらびれた秋。定家も「新古今」も「懐旧の情」に貫かれています。「見渡せば花も紅葉もなかりけり」という王朝時代への回顧と、現在への絶望。「百人一首」の最終章はこのように絶望の度を深めてゆきます。
#92と同様の散らしのパターン。全体は八行になり、行間だけを同じにあんばいしています。
作者は「さんぎ ふぢはらのまさつね」。
掲載日時 2009 年 11 月 20 日 - 午後 01 : 35