ここでひとやすみ(5)
ひらがなの完成度
ひらがなは表音文字ですが、全く新しい純和製の表音記号を先人たちは作りませんでした。それどころか表意文字を原材料として活用しました。「安」という字は意味を持っていますが、この草書字形を展開させて「あ」というかな文字としたとき、意味のない発音だけの字となったのです。
すでに「万葉仮名」においてこの方式は広まっていたので、あらたな記号を考案しないで済んだのですが、もしもハングル文字のように全面的に表意文字を記号化していたら、漢字との共存は不可能だったでしょう。
幸いなことに、漢字は日本語の中にかなり浸透していて、ほとんど国字同然となっていたこともあって、漢字にまぜても使えるひらがなが定着しました。漢字から生まれたひらがなは、漢字の行書、草書とはうまく調和します。
そのかわりに一つの漢字に2通りの「発音」がある、というやっかいな問題が生じました。「安」は「アン」が音読みであり、「やすらか」が訓読みです。訓は「日本語の訳語」にあたります。訳語とは言わずに「読み」の中に組み込んでしまったところが何とも天才的な発想です。
このような二重構造はもちろん中国には必要なく、我が国独自のものですが、この扱いにくい(新製品なら絶対に売れ筋ではない)文字体系が延々と使われることになろうとは、ちょっと驚きです。しかも平安時代に作り上げられたひらがなの形が、そのまま今に通用しているのです。字形というものは時代とともに変化し、定まらないのが常ですが、ひらがなはかなり短期間に完成し、その完成度はまさに完璧であったといえましょう。
掲載日時 2009 年 07 月 25 日 - 午後 04 : 54
